定年バックパッカー海外放浪記

2020年8月9日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

(2019.10.3~12/3 62日間 総費用18万2000円〈航空券含む〉)

 今まで世界一周を目指している幾多の旅人に会ってきた。日本人の若者の場合ほぼ100%仕事を辞めて不退転の覚悟で数年間の冒険旅行に挑戦していた。今回のインド旅行では地球一周の果てに何が見えてくるのか改めて考えさせられた二人の若者に遭遇した。

砂漠のオアシス、ジャイサルメールの邦人たち

ジャイプールのピンクシティーの中心にある『風の宮殿』

 ジャイサルメールのホテルでヒロさんというキャリアウーマン的雰囲気のアラフォー女性と親しくなった。

 ヒロさんは一般事務のOLをしていたが退屈して数年で退職。海外で働きたいと、学生時代に第二外国語で中国語を履修したことから上海の日系企業で現地採用職員となった。

 その後、一念発起して中国の大学で本格的に中国語を習得。そして現在は中国の大手国営企業の日本支社の幹部社員である。

 ヒロさんが砂漠ツアーに同行した日本人と一緒に夕食会するというので筆者もジョインさせてもらった。日本を代表する大手メーカー勤務のエンジニア28歳、関西から来たお洒落な20代の女性二人組、22歳の男子学生、それにヒロさんとオジサンの総勢6人。

 エンジニア君は海外赴任前の特別休暇中で前途洋々の未来を絵にかいたような好青年であり、関西の二人組も大いにインド旅行を楽しんでいる様子。

 二人組の一人は小説を書くためにインド旅行直前に勤務先を退職したと快活に自己紹介。驚いたことに今まで文章を書いた経験がまったくないそうだが、「退路を断って小説家を目指しまーす」と大らかに宣言。

大学は卒業する価値があるのか

 10時頃に夕食会は散会。ヒロさんとオジサンは屋上レストランに居残ってオジサンが持参したウィスキーで水割りを作っておしゃべりしていた。しばらくして先ほどの男子学生K君が戻ってきた。夕食会ではK君は口数が少なくどこか屈託した雰囲気だった。

 聞くとK君は22歳の元大学生で2カ月前に日本を出立して世界一周旅行の途上であった。私立大学に3年近く籍を置いていたが、大学の教科に興味が持てず、何と数単位しか取得していない。教務課に相談したら卒業するための最低単位を取得するには更に4年間必要と宣告された。

 大学に行かずに何をしていたのか聞くと、親からの仕送りはわずかなので生活費と学費を稼ぐためのバイトに明け暮れていたようだ。肝心の勉学に興味が持てず、さらに悪いことに将来何かをしたいという目標も見つからず、ズルズルと3年間を過ごしてしまったと力なく語った。

 教務課と相談後にK君はお金と時間を費やしてまで大学を卒業する価値がないと考えた。そんな時に世界一周冒険旅行の本を読んで、自分が本当にやりたいことが見つかったと気持ちが高揚したという。旅行資金を貯めるために半年間死にもの狂いで働いたが、この半年間は毎日が最高に充実していたとK君は振り返った。

憧れの世界一周の現実

 さらに話を聞くと、K君にとっての悲劇は漫然と過ごしてしまった過去の3年間だけでなく現在進行形の世界一周旅行であった。ワクワクドキドキの冒険旅行を夢想していたが現実の海外一人旅はK君には過酷で惨めな毎日のようだ。

 K君の断片的な述懐を整理すると、まったく英語もしゃべれず現地人や外国人旅行者との会話を避けて黙々と孤独な貧乏旅行。たまに邦人に出会っても気後れして臆してしまい却って孤独感を深めてしまう。

 比較的日本人には親しみやすい東アジア地域ですらK君にとっては無限孤独地獄であるなら、この先は中東、アフリカ、欧州、南北アメリカと更に難易度があがる。せっかく海外を歩いても外的世界との接点が希薄であれば“ひきこもり”と変わらない。

 それでもK君が初志貫徹し世界一周を達成することを祈った。たとえ過酷で惨めな試練の連続であっても地球を一周したという実体験こそがK君が人生のネクスト・ステージに進むために不可欠なのだと思った。

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