2024年12月23日(月)

Washington Files

2020年10月2日

29日に行われた第1回テレビ討論会(AP/AFLO)

 ニューヨーク・タイムズ紙の特大スクープでトランプ大統領が長年、所得税の脱税と超過少申告を繰り返していた実態がついに明るみになった。自ら豪語してきた「億万長者」は虚像だった可能性が高い。

 「私は(億万長者の)ドナルド・トランプより高額納税者だI paid more taxes than Donald Trump!」―11月3日の大統領選挙を前に、全米でこんなメッセージ入りシャツ類やピンバッジの販売が始まった。

 「ドナルド・トランプより高額納税者はクラクション鳴らせHonk if you paid more taxes than Trump」―ほぼ同時に、同趣旨の文言を刷り込んだ乗用車ステッカーのネット販売も始まり、同調者同士が走行中にすれ違いざまクラクションを鳴らすことを呼びかける運動へと広がる気配を見せている。

 いずれも、先月27日、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた爆弾記事で、2016年、17年両年度のトランプ大統領の所得税納税額がたったの750ドルだったことが判明したことを受けたものだ。全米の一般サラリーマンはもとより、建設労働者、ホテル・メイドなども含めた圧倒的多数の国民が毎年1000ドル以上の所得税を納税してきており、それを下回る大統領個人の不正納税を糾弾すると同時に、大統領選での「トランプ追放」を有権者向けにアピールする狙いがあるとみられる。

 同紙特大スクープの重要骨子は以下のようなものだ:

①トランプ氏は過去18年間にわたり、9500万ドルの所得税を納税したが、その後、「企業損益」などを理由に7290万ドルの還付を受けた。州税、市税でも2100万ドルの還付を受けた。所得税還付金7290万ドルについては、「疑わしき方策dubious measures」により還付を受けた可能性があるとして、現在、内国歳入庁(IRS)の監査対象となっており、その結果次第では大規模罰金を科せられる可能性もある。

②トランプ氏は2016年、2017年の両年、連邦所得税をそれぞれ750ドルだけ納税するにとどまった。

③過去15年のうち10年分については、損失が収益をはるかに上回ったことなどを理由として所得税をまったく納めなかった。

④トランプ氏は豪勢なライフスタイルを維持するため、自家用旅客機、数多くの別邸、ゴルフコースを次々に手に入れたが、購入費および維持費の大部分を「経費扱い」として税処理してきた。

⑤トランプ氏は2000年以来、いくつものゴルフ場経営で3億1500万ドルの損失を計上したほか、大統領就任後、新設オープンしたばかりの首都ワシントンの「トランプ・インタナショナル・ホテル」経営でも5500万ドルの損失を税申告した。

 初めて暴露されたこうした驚くべきトランプ氏の納税実態は、「不動産王」「億万長者」「屈指のディールメーカー」などこれまで自慢してきた自画像とは大きくかけ離れたものであったことを裏付けている。

 しかし、それだけにとどまらない。今回報道では詳細が明らかにされなかったさらなる疑惑がいくつもある。

 その第1は、2022年までに返済義務が迫っているとされる4億2100万ドルもの借金をどこから借り受けたかだ。

 ブルームバーグ通信は税問題に詳しいベテラン記者による解説記事の中で、トランプ氏がロシアのプーチン大統領またはその側近財界人から多額の融資を受けてきた疑惑に言及、今後、捜査当局による本格的メスが入ることになれば、重大な国家的犯罪に発展する可能性を指摘している。

 この点に関連して想起されるのは、2018年7月16日、ヘルシンキでプーチン大統領との首脳会談に臨んだトランプ氏の終始怖気ついた態度と発言だ。席上、記者団から「米国トップの情報機関の最終結論として、ロシアがプーチン指揮の下で2016年米大統領選に介入した件を話したか」との質問を受けたトランプ氏は、隣席のプーチン氏の顔色をうかがうようなしぐさを見せながら「会談でその件も話題に上ったが、プーチン氏は真っ向から否定した。わが国のインテリジェンスがどう言おうが、私は彼の言葉を信じる」と答えた。この時の大統領の卑屈なまでの発言と態度は米主要テレビ、新聞で大々的に報じられた。米議会でも野党民主党のみならず、与党有力議員の間でも、「自国のれっきとした情報機関の調査より外国指導者の言葉に重きを置くとは何事か」といった猛烈な非難の声が挙がった。

 有力誌「Atlantic」最新号は、2年前のこの“ヘルシンキ・エピソード”を念頭に「ニューヨーク・タイムズ紙の指摘で浮上したトランプ氏の莫大な借金の出所がもしロシアなどの外国政府だったとしたら、大統領がつねに脅迫にさらされ、国家安全保障が損なわれる危険がある」との論評を掲げている。


新着記事

»もっと見る