Washington Files

2020年9月28日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

米大統領選は後半に入り、これまで“岩盤”ともいわれてきたトランプ支持層に亀裂が入り始めた。終盤に向けての選挙資金集めでもバイデン陣営にリードを許しており、大統領再選委員会も一層警戒を強めている。

バイデン氏(REUTERS/AFLO)

 過去1カ月の両陣営選挙戦を通じ、米マスコミが注目した話題の1つは、「トランプ支持基盤の委縮」だった。

 公共放送「NPR」は去る3日、前回大統領選以来、全米有権者人口マップの変化について、ブルッキングズ研究所と共同で実施した興味ある分析結果を発表した。

 その中でとくに目を引いたのが、全有権者に占める高卒以下の「低学歴白人層」のシェアの低下だ。建設労働者、農業従事者などで構成される同グループは4年前、圧倒的多数でトランプ支持に回り、当選の大きな要因となったが、分析によると今回、全体に占めるシェアは45%から41%に低下していることが判明した。

 逆に、民主党支持者の多い大学卒以上の「高学歴白人層」、ラテン系、アジア系有権者が占める割合は顕著に増加した。

 さらに、この傾向は11月の選挙で接戦が予想される、ウイスコンシン、ミシガン、ペンシルバニアを含む16州のうち、14州で目立っており、とくに、ラテン系、アジア系有権者が多いフロリダ、ジョージア、サウスカロライナ、ノースカロライナ各州で際立っているという。

 このようなデータを下に、分析に当たったブルッキングズのウイリアム・フレイ研究員(人口統計学)は①「低学歴白人層」の有権者の3分の2が前回選挙でトランプ支持だった②しかし、その後、民主党支持者の多い「高学歴白人層」とラテン系の2グループが急速に増加し全体シェアではわずか2ポイント差まで「低学歴白人層」に肉薄してきた③これら接戦州のうち、前回選挙ではトランプ氏がヒラリー・クリントン民主党候補相手に、「ラストベルト」(錆びついた工業地帯)といわれるミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニア3州合わせわずか8万票足らずで制したことが勝因となったが、今回、「低学歴白人層」のシェア低下により、傾勢が逆転する可能性がある―などの点を指摘した。

 さらにこの「低学歴白人層」については、そのシェアのみならず、トランプ氏に対する支持率そのものも、最近,低下してきたことが明らかになった。

 ロイター通信がIpsosと合同で実施した今月8日付けの合同世論調査結果によると、去る5月段階ではトランプ氏が「低学歴白人層」の間の支持率でバイデン候補に21ポイントもの差でリードしていたが、8月にはその差が12ポイントまで縮まった。ヒラリー・クリントン候補に34ポイントの大差をつけた4年前と比べると、極端な減少傾向を示している。

 同調査ではまた、今回選挙で「必ず投票する」と回答した「低学歴白人層」の有権者数が減少しているのと対照的に、民主党支持者の多い「高学歴の白人」のほか、黒人、ヒスパニック有権者の投票意欲の高まりが目立ちつつあるという。この点について、ドナルド・グリーン・コロンビア大学政治学教授は「過去の選挙前調査ではあまり関心を示さなかったこれらのグループが積極的政治参加意思を示すのは前例がなく、今回はそれだけトランプ大統領に対する強い不信の表れだといえる」とコメントしている。

 このため、トランプ再選委としては今後終盤にかけ、接戦州の「低学歴白人層」に対するより真剣な投票呼びかけを余儀なくされつつある。

 「トランプ支持基盤の委縮」の第2の例として挙げられるのが、白人女性グループの“変心ぶり”だ。

 9月5日付けのウォールストリート・ジャーナル紙によると、白人が大半を占める都市近郊の女性層を対象とした意識調査で、今回大統領選におけるバイデン支持率が56%だったのに対し、トランプ支持率は39%にとどまっていることが明らかになった。前回大統領選での同調査では、トランプ支持率は49%で、対立候補のクリントン氏(46%)を上回っていた。過去4年間で立場が逆転したことを裏付けている。

 また、前回選挙における全米白人女性有権者の得票率調査によると、クリントン候補が34%だったのに対し、トランプ氏は62%と圧倒的人気を誇ったことが、勝利につながる要因のひとつとなった。

 しかし今回、バイデン支持に圧倒的に傾斜する黒人、ヒスパニック系はもとより、白人女性有権者の間においてもトランプ支持率がはっきり低下した。女性票は全体の過半数を占めているだけに、女性の離反はトランプ陣営にとって大きな痛手であることは間違いない。また、最新の都市近郊女性層全体を対象としたNPR/PBS世論調査によると、実に66%がトランプ大統領に対する「不支持」を表明、「断固不支持」だけでも58%に達している。

 トランプ陣営にとって第3の不安材料は、軍部における支持率低下と離反だ。

 米軍事専門サイト「ミリタリー・タイムズ」は去る8月30日、現役将校、軍人1018人を対象とした大統領候補支持率調査結果を公表した。

 それによると、トランプ大統領について「評価しない」と答えた人は49.9%と約半数に達したのに対し、「評価する」は38%にとどまった。また、「評価しない」人のうち実に42%が「断じて評価しない」と答えた。3年半前の同調査では、トランプ大統領を「評価する」が46.1%、「評価しない」が37%だったのと比較すると、完全に逆転する結果となった。これに対し、バイデン候補に対しては「評価する」が41.3%となっており、伝統的に共和党傾斜がめだった軍部の支持とりつけで共和党のトランプ氏を上回るかたちとなった。

 現役米兵は海外駐留も含め約140万人にも上っており、もし、今回の米軍専門サイト調査結果が米軍全体の空気を正確に反映しているとすれば、トランプ氏は軍人票でもバイデン候補に大きくリードを許すことになる。それだけではない。これに数十倍規模の退役軍人、数倍規模の軍属まで考慮すると、投票動向への影響はかなり大きなものになると予想される。

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