Washington Files

2020年9月7日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

トランプ大統領が金正恩北朝鮮労働党委員長との3度にわたる首脳会談に踏み切るなど、なりふり構わぬ微笑外交を展開したにもかかわらず、その後、かえって北の核脅威を増大させる結果につながったとの見方が、米専門家の間で広がりつつある。

(andriano_cz/gettyimages)

 「会談はとてもポジティブなものだった。北の核の脅威はもはやなくなり、世界中の誰もが自分が大統領に就任する前にくらべ安全になった」―トランプ大統領は去る2018年7月、シンガポールで行われた金正恩氏との第1回首脳会談終了後、自らのツイターにこう書き込み、その成果を高らかに謳い上げた。

 大統領はその後、2019年2月、ベトナム・ハノイで、そして同年6月、朝鮮半島・板門店であいついで米朝首脳会談を行った。

 しかし、世界を興奮の渦に巻き込んだ派手な政治ショーの割には、本来の目標だった北朝鮮の核廃絶に向けた進展はほとんどなく、「核の脅威はなくなった」との大統領の評価とは裏腹に、かえって北朝鮮は核戦力も含めた軍備増強を着々と進めつつ今日に至っている。

 そこで具体的に、過去3回の首脳会談終了後、北朝鮮が核・ミサイル問題に関連し、それぞれどのような行動をとってきたかを振りかえってみることにする:

●第1回首脳会談(2018年6月12日)内容とその後

 両首脳は共同宣言を発表「新たな両国関係を樹立し、朝鮮半島に恒久的安定的平和的政治体制構築」を目指すことで合意した。金正恩氏は「朝鮮半島完全非核化に向け取り組む」ことを約束、トランプ氏は「北朝鮮に対する安全保障の提供」を表明。さらにトランプ氏は会談後の記者会見で「米韓合同軍事演習の中止」の意向を明らかにした。

(その後の動向)

2018年7月20日

 ポンペオ国務長官が米上院外交委員会証言で「北朝鮮が引き続き核物質生産を続けている」ことを公式に確認

2018年8月20日

 国際原子力機関(IAEA)が年次報告を公表、「北朝鮮が核開発プログラムを継続・発展させるとともに、これらと関連した一連の声明を発表していることは、国際社会にとって深刻な憂慮すべき事態である」と警告

●第2回会談(2019年2月27-28日)内容とその後

 両国首脳は2日間にわたり会談したものの、大きな進展はなく、いかなる合意文書の署名にも至らず閉幕。終了後、トランプ大統領およびポンペオ国務長官は記者会見し「話し合いにある程度の進展はあったが、北朝鮮側は『部分的非核化と引き換えに経済制裁解除』を要求、物別れに終わった」と説明。これに対し、北朝鮮側は外務省声明で「核実験およびミサイル発射実験の恒久的停止と引き換えに経済制裁の部分的解除を求めたが、合意が得られなかった」と説明

(その後の動向)

2019年5月4日

 北朝鮮が過去に行ったことのない新型ロケット砲(複数回)および短距離弾道ミサイルの発射実験を実施

2019年5月9日

 北朝鮮が2度続けて短距離弾道ミサイル発射実験を強行

 米海軍が経済制裁を無視した海上行動をしていた北朝鮮船舶を拿捕

2019年5月10日

 トランプ大統領が北朝鮮側の新型ミサイル実験について「金正恩氏が信頼を裏切ったわけでもなく、国連安保理決議違反にも該当しない」と論評

●第3回会談(2019年6月30日)内容とその後

 米国大統領として初めて朝鮮半島板門店を訪問、会談に先立ち、トランプ氏は南北を分断する非武装(DMZ)境界線を歩いて渡り北朝鮮側に足を踏み入れた。両首脳は数時間にわたる会談終了後、「今後も協議を継続するとともに、ワーキンググループ会合を数週間以内に開始することで合意」と発表

(その後の動向)

2019年7月25日

 北朝鮮が「KN-23」型短距離弾道ミサイル2発を発射、「実験は成功」と発表

2019年8月6日

 北朝鮮が前日実施された米韓軍事演習について「米朝間の対話の一方の相手国を標的にした戦争シミュレーションの演習」だとして厳しく非難するとともに、同日、「KN-23」型とみられる弾道ミサイル2発の発射実験を実施、「すべて成功」と発表

2019年8月10日

 北朝鮮が「KN-23」型より高性能の固形燃料式「準弾道ミサイル」2発を発射

2019年8月16日

 北朝鮮が短距離ミサイル2発を発射、実験に立ち会った金正恩氏が「パーフェクトな結果につながった」と評価

2019年8月24日

 北朝鮮が短距離弾道ミサイル2発の発射実験を行い「成功した」と発表

2019年8月27日

 北朝鮮が実施してきた一連の弾道ミサイル発射実験について、英国、フランス、ドイツ3カ国が「挑発的行動を中止すべきだ」との国連安保理声明を発表、金正恩指導部に対し、米国との建設的交渉に乗り出すよう要求

2019年10月2日

 北朝鮮が新型潜水艦発射ミサイル(SLBM)を450キロ離れた海域に発射、着弾させる実験に成功。北朝鮮としては2016年8月に初めて成功して以来、2度目のSLBM発射実験となった。これに対し、米国務省スポークスマンは「北朝鮮は国連安保理決議案にのっとり挑発的行動は控え、朝鮮半島の平和と安定確保のための継続的対話に乗り出すことを期待する」との談話を発表。

 上記のような具体例でも明らかなように、北朝鮮はトランプ大統領が前のめりになってまで3回もの首脳会談実現に傾注した2018年6月~2019年6月の約1年の間に、米側の期待とは裏腹に、核開発と各種ミサイル発射実験に着手してきた。

 その結果、翌2020年には、弾道ミサイルに装着しやすい核弾頭のミニチュア化など、北朝鮮の核の脅威が一段と増大していることが明らかになってきた。

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