Washington Files

2020年8月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 「トランプ大統領はアメリカのコロナ禍を世界最悪状態に至らせた中心人物」と結論付けた米有力誌の最新調査報道が、大きな話題となっている。

( REUTERS/AFLO)

 アメリカのコロナウイルス感染はとどまることなく拡大を続けている。8月第1週段階での感染者数は全米で500万人、死者は16万人を突破した。人口は世界全体のわずか4%しか占めていないにもかかわらず、感染者、死者総数では25%近くを占め、世界最悪国となっていることは間違いない。

 こうした折、アメリカの有力雑誌「アトランティック」は今月3日発売の9月号で、ベテラン記者による「米コロナ危機のアナトミー(解剖学)」と題する長文の巻頭分析記事を掲載、この中で「トランプ大統領だけに責任のすべてを負わせることはできないが、彼が事態を最悪状態に陥れた中心的人物」と結論付けた。

 同誌のエド・ヤング記者がコロナ感染が始まって以来、100人以上の専門家たちに精力的に取材した結果をまとめたもので、内容は以下の通りだ:

 まず冒頭の総論で、「アメリカがコロナとの戦いに失敗した5つの側面」として①発生当初の数週間、大統領は感染者検査の大規模実施、企業に対する予防医療器具類の大量生産要請をせず、国境防衛を重視した②公衆衛生システムに対する十分な財政支援が軽視され、感染拡大に迅速に対応できなかった③アメリカ社会が抱える人種的不平等ゆえに、マイノリティ市民への感染が不釣り合いに拡大した④間違った情報や噂が混乱を引き起こし、対応を遅らせ、感染拡大につながった⑤大統領自身の行動が事態を深刻化させる上で中心的役割を果たした―と指摘した。

 その上で、同記事はコロナ危機深刻化と大統領の言動との関係について多くのスペースを割き、次のように詳しく論じている:

  1. 大統領は、アメリカが理事会メンバーだった世界保健機関(WHO)を2年以上も空席のままにし、今年5月に急遽理事を補充した時にはコロナ感染が全米に拡大、手遅れとなった。2017年以来、米疫病対策予防センター(CDC)中国事務所のスタッフ30人以上を削減し、昨年7月には、同事務所駐在の米国人疫病学者まで引き上げさせた。彼らが以前通り、中国で活動を続けていれば、中国でのコロナ発生をいち早く探知できた。
  2. 米国内においても大統領就任以来、政府組織からの“ディープステート”(不満分子)一掃キャンペーンに乗り出し、各省庁の専門家たちを解雇、より経験の浅いスタッフたちと交代させた。ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)に存在していたウイルス感染対策室も撤去させた。政府各秘密情報機関が今年1月すでに、コロナウイルス蔓延を警告していたにもかかわらず、関心を示さず、アレック・アザール保健福祉省長官による警告も2度にわたり無視した。
  3. コロナ感染が米国内に本格的に広がる2月上旬段階で、拡大防止のための果敢な行動に出るべきだったが、大統領は大規模なウイルス検査実施や大企業に対する予防医療器具大量生産要請など、迅速な対応が後手に回った。代わりにメキシコ国境、海外からの入国制限措置で間に合わせた。
  4. 1月31日に大統領は、中国からの入国制限措置を発表したが、厳格なものではなく抜け穴だらけだったため、その後、何千人もの旅行者が同国から入国した。続いて欧州からの入国制限にも乗り出したが、突然の措置だったため、米国主要都市の国際空港は大勢の入国者で大混乱を引き起こし、感染を拡大させた。
  5. 政府はコロナ感染拡大に対応するため、早期にマスク、医療器具調達に乗り出すべきだったが、大統領自身はマスク着用にも消極的態度をとり続けただけでなく、各州知事との協議でも国家的指針は何ら示すことなく「州ごとに必要な措置をとるべきだ」と述べ、大統領としての責任を回避し続けた。
  6. 「3蜜回避」の一環として重要視されているソーシャル・ディスタンス確保についても、大統領は軽視し続け、オクラホマ州での大規模屋内演説集会に姿を見せるなど、軽率な言動に終始した。ある感染予防研究機関は、もし、大統領が当初から先頭に立ってソーシャル・ディスタンスの必要性をアピールしていた場合、コロナ感染による全米の死者数は3万6000人程度は削減できたとの試算を出している。
  7. 大統領はたびたび「ワクチン早期開発見通し」の楽観的発言を繰り返し、一般国民に誤った期待感と危機意識欠如につながっただけでなく、しばしば医療・保健当局とは異なる発言を続けてきた。その一方でコロナ検査体制不備について「自分は責任をとらない」と述べるなど、“戦時大統領”としての資質欠如を露呈させた。

 「アトランティック」誌はこのような分析結果を踏まえた上で、以下のような総合判断を示している:

 「アメリカという巨大国家の関係各機関を巧みに調整し動かすのは、決してかんたんなことではないが、もし大統領がコロナ感染発生当初から、陣頭指揮をとり、果敢な行動力を発揮していれば、政府各機関のみならず、各州自治体、民間組織も危機意識をもってスピーディーに対応できていたはずだ。しかし、大統領が『コロナは大したことはない』『すぐに収まる』とコメントし続け、今回のような国家的危機の際に国力、技術力など、アメリカが本来持てるパワーをフルに発揮できなかったことは、驚くべきことだ。トランプ氏は結局、今回コロナウイルス・パンデミックの『共起要因』(comorbidity)であり、アメリカの現下の混乱状態の単独責任者ではないものの、中心的存在である」

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