バイデン民主党大統領候補が副大統領候補に中道穏健派のカマラ・ハリス上院議員を選んだことで、ウォール街の大手金融・投資関連企業の経営陣の間では安ど感が広がるとともに、今後11月大統領選に向けて、民主党への政治献金も一段と加速するとの見方が出始めている。
「カマラ・ハリスがバイデン・チケット合流でウォール街は安ど」-バイデン副大統領候補が副大統領候補にカマラ・ハリス上院議員の選定を発表した12日、同日付のウォールストリート・ジャーナル紙はこんな見出しの関連記事を掲載した。
同誌はこの記事の中で、ウォール街を代表する金融・投資家多数の意見として「ハリス女史は進歩派だが、現在の金融体制破壊ではなく、強化を望んでおり、体制の中で仕事をしてきた理性ある人物だ」(ウェルズ・ファーゴ銀行広報部長)、「彼女は繁栄をみんなで共有すべきとする立場だが、諸問題解決のためのビッグビジネスの存在と責任を重視している」(センタービュー・パトナーズ投資グループ共同創始者)、「同候補は人種、性別、年齢差などにこだわらず、あらゆるアメリカ人の熱望をかなえるための力強く、情熱あふれる雄弁家であり、がんじがらめのイデオロギーにこだわる人物ではない」(ポール・ワイズ法律事務所会長)など好意的コメントを紹介している。
これより先、11月大統領選をめぐる最近のウォール街の動きについては、すでに米CNBCテレビが、多くの財界人の間でトランプ再選の可能性が薄くなったとして「バイデン次期大統領誕生」への備えが始まっている、と報じていた(本欄拙稿7月1日付「ウォール街が早くも『バイデン次期大統領』シフトの気配」参照)
こうした流れを象徴するのが、最近の両陣営に対する金融界の政治献金実態だ。
去る9日付のニューヨーク・タイムズ紙によると、ウォール街はこれまでトランプ政権が発足以来、実施してきた減税、規制緩和政策などやその結果としての株価上昇を好感し、評価してきた。しかし、最近数カ月、コロナ感染拡大が深刻化するとともに、対応の遅れ、トランプ大統領の政権統治のカオスぶりが露呈してきたことから、「財界における政治的経済的そろばん勘定」に劇的な変化を生じさせた。その結果、バイデン候補の存在を見直すことになり、同候補への政治献金への目立った流れにつながった。
その具体例として、同紙は①これまでアメリカ北東部諸州で共和党への最大政治献金者として知られてきたヘッジファンド「Baupost」創始者セス・クラーマン氏が今回、バイデン民主党陣営に300万ドルを寄付した②大手投資グループ「Carlyle Group」役員ジェームズ・アトウッド氏が去る6月、「トランプがどこかの企業のCEOだったら即刻解任に値する」としてバイデン氏側に自分のポケットマネーから20万ドルを献金した③投資会社「Bain Capital」共同経営者ジョシュ・ベッケンシュタイン夫妻が71万ドルを「バイデン選挙ファンド」に寄付した―などの具体例を挙げた。
そして、バイデン陣営に対する金融界の献金は今年5月、6月の2カ月間だけで、1150万ドルに達している。1月から最近までの献金総額でも、4400万ドルを突破、同期間のトランプ陣営への総額が900万ドルに留まったのとくらべ、5倍近い増加ぶりだという。
もともとウォール街とホワイトハウスとの関係については、歴代共和党政権寄りとみられがちだが、実際は必ずしもそうではない。金融界はどちらかといえば、目先の利益だけに目を奪われることなく、中長期的視点で人物本位で大統領選挙を支援してきた。
たとえば、2004年大統領選ではジョージ・W・ブッシュ大統領再選(共和)、2008年にはオバマ大統領候補(民主)、2012年にはミット・ロムニー候補(共和)、そして前回2016年選挙ではヒラリー・クリントン候補(民主)と、政党支持は揺れ動いてきた。
ウォールストリート・ジャーナル紙などの報道によると、今回の場合も、財界・金融界では、トランプ大統領の破天荒な言動ぶりや予測しがたい衝動的諸政策に対する幻滅感が広がる一方、77歳という高齢ながらより洗練された安定したバイデン氏の手腕ぶりに対する評価が高まってきているという。
両氏に対する評価の違いが端的に表れたのが、上記のようなウォール街を中心とする財界からの政治献金の明確な格差だ。