2022年12月4日(日)

Washington Files

2020年8月17日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

財界、IT業界も後押し

 そこに加え、ハリス上院議員が正式に副大統領候補に選ばれたことによって、財界の民主党陣営への後押しが一層加速することになった。

 ウォール街は、大統領選の民主党予備選が始まった今年初め、高額所得者に対する「富裕税」創設、国民皆保険実現などを主張するバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン両氏らの動きを警戒してきた。その後、バイデン氏が最終的に同党大統領候補に確定してからも、社会主義的路線を掲げるウォーレン氏の副大統領候補人選の動向をとくに注目していた。

 しかし結果的に、中道穏健派で現実主義者のハリス氏に白羽の矢が当てられたことで、財界の「バイデン・ハリス・コンビ」に対する支援姿勢がより明確になった。

 この点で特に注目されるのが、ウォール街最富豪の一人で大手通信社「ブルームバーグ・ニュース」を所有するメディア王として知られるマイケル・ブルームバーグ氏の反応だ。

 ブルームバーグ氏は今年初め、同じ民主党ながらサンダース、ウォーレン両氏のような急進路線に対抗して大統領選予備選に立候補、拠点州における大々的なTV広告など10億ドルともいわれた私財を惜しみなく投じて派手な選挙戦を展開した。しかし、大衆の幅広い支持が得られず、結局、序盤で撤退、その後は、バイデン氏の同党大統領候補が確定してからも、表立った発言や金銭的支援の動きを控えてきた。

 ところが、同氏は「ハリス副大統領候補選出」が発表された12日の翌朝早速、自らが筆をとった「ブルームバーグ社説」を「ブルームバーグ・ニュース」を通じて世界に向けて発信、この中で「バイデン氏は副大統領候補として、ホワイトハウスを目指す強力かつ統治能力の高いパートナーを選んだ」などと、バイデン氏以上にハリス氏の資質を評価する賛辞を並び立てた。

 民主党全国委員会(DNC)当局者が明らかにしたところによると、ブルームバーグ氏はバイデン、ハリス両氏が正副大統領候補としての「正式指名受諾演説」を行う同党全国大会最終日の今月20日に、バラク・オバマ前大統領らとともに登壇、全国有権者に向けて両候補への熱烈支持をアピールすることになっている。

 個人資産540億ドルの大富豪の同氏は、かねてからトランプ大統領とは折り合いが悪く、「彼をホワイトハウスから追放するためには惜しみなく金を投じる用意がある」と公言しており、バイデン選対本部およびDNC内では、今後、党大会終了後、同氏が自陣営への大規模な政治献金に乗り出すことに並々ならぬ期待を寄せているという。

 もし実際に、ブルームバーグ氏が同党選対本部に、自身の予備選に投じた10億ドルを上回る巨額の寄付に踏み切った場合は、これまでトランプ氏側が優勢だった両陣営の選挙資金“集金レース”で、バイデン陣営が一気に逆転し、逆にリードするシナリオもありうる。

 今後、両陣営とも有権者向けの集中的TV・インターネット広告のために莫大な資金を必要とするだけに、ブルンバーグ氏が具体的に、11月3日投票日前のいつの時点で、どれだけ巨額の献金に踏み切るかに米各メディアも大きな関心を寄せている。

 一方、ウォール街だけでなく、カリフォルニア州シリコンバレーを拠点とする大手IT企業の間でも、バイデン氏が、これまで同州の多くの富裕IT経営者たちとの緊密な人脈を誇るハリス女を副大統領候補に選んだことを熱烈に歓迎する声が挙がっている。

 アップルコンピューター共同創設者の一人、故スティーブ・ジョブズ氏未亡人で億万長者で知られるロレーヌ・パウエル・ジョブズ女史は早速、自らのツイッター投稿で「バイデン氏は(副大統領候補問題で)偉大な選択をした」と賛辞を贈った。

 ハリス候補はジョブズ女史のほか、フェイスブック社最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグ女史、グーグル社経営陣などとも密接なパイプを維持しており、今後、投票日に向けて、IT関連資金が民主党選対本部に一段と流れ込むものとみられている。

 ちなみに、公共放送「NPR」が両陣営の選挙資金関連について信頼すべきデータを下に報じたところによると、去る7月20日段階で、トランプ陣営は「集金総額」10億800万ドル、「支出総額」8億9700万ドル、「手持ち資金」2億1300万ドル、これに対し、バイデン陣営は「集金総額」6億3300万ドル、「支出総額」5億ドル、「手持ち資金」1億4600万ドルとなっており、最近までは、トランプ陣営が一歩リードしてきた。

 しかし今後は、ウォール街およびシリコンバレーを中心とした富裕層がバイデン陣営に多額献金に乗り出すとみられているため、その差も縮まる可能性が高い。

 日本などの人口過密国とは異なり、広大な国土ながら人口密度の低いアメリカでは従来から、大統領選での最大武器として「TV広告」が最重要視されてきた。今回はこれにインターネットを加えた「トータル・メディア広告」がとくに脚光を浴びており、そのためにも、両陣営にとって今後、選挙戦最終段階でどれだけの資金を集められるかが、勝敗を決める一つのカギとなりつつある。

  
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