Washington Files

2020年8月31日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

熱心なトランプ支持者(AP/AFLO)

 米大統領選が近づくにつれ、コロナ禍の影響で11月3日の投票日当日に勝敗が確定せず、最終決着の大幅遅れ、法廷闘争といった“惨事disaster”になりうるとして、真剣に懸念する声が広がりつつある。

 去る6月12日、米大統領選の選挙プロ、政府経験者、学者、軍人など超党派の有識者約120人が秘密裏にオンラインで集合してある重大な「シミュレーション検討会議」が開催された。目的は、11月3日の米大統領選が、予測不可能で破天荒なトランプ大統領の個人行動、コロナ禍などの影響による開票作業の大幅遅れ、郵便投票結果の取り扱いなどで起こり得る大混乱のシナリオについて率直に意見を交換し合い、善後策を話し合うためだった。

 ボストン・グローブ紙(7月26日付)などが特報で報じたもので、非公開の会合では、参加者から次のような憂慮すべきシナリオが列挙された:

1.接戦州開票の1週間以上の遅延のケース

 勝敗の決め手となるノースカロライナ、ミシガン、フロリダ3州の投票所開票でトランプ氏がわずかながらリードしつつも、最終集計が11月3日までに終了せず、双方接戦状態が1週間以上続く。この間、「郵便投票」「不在者投票」の開票ではバイデン候補の得票数が増え始め傾勢が逆転する(民主党シンボルカラーであるブルーにちなみ“ブルーシフト”と呼ばれる)。

 「郵便投票」「不在者投票」を“党派的インチキ”との批判を繰り返してきたトランプは司法長官に命じ、開票途中の各投票所を管理下に置くとともに、州当局には共和党議員らを通じ、これらの票の集計作業凍結を呼びかける。これに対し、バイデン陣営は「郵便投票」「不在投票」含めたすべての票の集計を求め、支持者に各地で決起集会を働きかける。

 トランプ陣営は間髪を入れず、各州で州兵動員に踏み切るものの、結果的にノースカロライナはバイデン氏、フロリダはトランプ氏がそれぞれ勝利宣告となり、最終決着はミシガンの開票結果次第となる。

 ここで“ある不埒な人物”が介在し、バイデン支持とみられる投票用紙が廃棄された時点で、共和党が多数を制する州議会が「トランプ勝利」を宣言する一方、グレッチェン・ホイットマー州知事(民主)はこれと異なる「バイデン勝利」宣言書を連邦議会に発出。

 この時点で両陣営支持者たちが大挙して自陣側の正当性を主張する街頭デモを繰り広げる。トランプ氏は「国家反乱法」(1807年制定)まで発動すると同時に、ペンス副大統領(上院議長)命により上院本会議としてミシガン州の勝利者を「トランプ氏」と認定。しかし、民主党側はこれを認めず、上下両院協議会が大統領選の最終投票結果を承認する1月6日までに決着がつかず、結局、国民にとっては両氏のどちらが「合衆国最高司令官」か判然としないまま1月20日の大統領就任式を迎えることになる。

2.選挙人数でトランプ氏勝利、総得票数でバイデン氏が大差でリードのケース

 2016年大統領選では、総得票数でヒラリー・クリントン候補が284万8686票差でトランプ氏を上回ったが、選挙人数で及ばず敗退した。しかし、今回、それをはるかに上回る大差でバイデン候補が総得票数でトランプ氏をリードした場合、大混乱となり得る。

 まず、前回、クリントン候補が開票日深夜に「敗北宣言」したのと異なり、バイデン陣営は敗北を認めず、ウイスコンシン、ミシガン、ノースカロライナ3州において「票読み直し」を州知事(いずれも民主党)に要請、その結果、バイデン氏が3州とも制し、当初とは異なる「バイデン支持選挙人」を連邦議会に報告する。

 しかし、これより先、共和党が多数を制する同3州議会は「トランプ勝利」を前提とした「選挙人」を連邦議会に提出しているため、両陣営の主張するどちらの「選挙人」を加算するかをめぐり真っ向から対立する。

 この間、トランプ陣営は穏健派の民主党員たちに譲歩するよう説得するものの、結局、折り合いのつかないまま、1月20日就任式を迎える。

 大混乱の中で、軍隊がどんな動きを見せるかも注目される。トランプ氏が「ホワイトハウス死守」目的で軍出動を命じたとしても、戦時の場合なら、「最高司令官命令」に自動的に従うのが慣例だが、国内政治の混乱の場合「軍の中立性」を理由に、国防長官、統合参謀本部議長がこれに従わないこともあり得る。もし、軍出動となった場合、市民が暴徒化し、国じゅうで“内乱状態”になりかねない。

 また、大混乱状態の中で、民主党勢力が支配するカリフォルニア、オレゴン、ワシントンの西海岸3州が「合衆国離脱」の動きを起こす可能性も否定できない。

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