Washington Files

2020年9月21日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 全米有数の億万長者で知られるメディア王マイケル・ブルームバーグ氏が、大統領選終盤に来て、「トランプ再選阻止」めざしバイデン民主党候補への大口政治献金に乗り出した。

ブルームバーグ氏(REUTERS/AFLO)

 背景に、ニューヨーク市長時代からの確執と怨念がある。

 「ブルームバーグ氏、フロリダでのバイデン候補テコ入れに最低1億ドル寄付!」―13日付の米ワシントン・ポスト紙(電子版)はこんな大見出しの記事を掲げ、11月3日投票日に向けし烈化する両陣営の選挙資金集めの近況を報じた。同日付のCNN、CNBC、CBSはじめ各主要テレビ、AP、ロイター両通信社、多くの電子メディアも「至急報」で一斉に大々的に伝え、異常ともいえる反響の大きさを示した。

 報道によると、ブルームバーグ氏顧問団は先週、選挙戦終盤に入り、資金集めでもバイデン候補にリードを許すトランプ氏が「最後は自分の持ち金を投じてでも勝利する」と言明したことから、急遽対策を協議、その結果、2016年大統領選挙同様、今回も最終的に勝敗のカギとなるとみられるフロリダ州での攻防に備えバイデン氏に対する大口政治献金を決断したという。 

 大富豪ブルームバーグ氏がいきなり1億ドルという巨額の支援金運用をフロリダ州向けに特定した狙いについて、同紙は、バイデン選対本部がこれまでにプールしてきた選挙資金を追い込み段階で南部諸州にまで分散させず、接戦州とされるウイスコンシン、ミシガン、ペンシルバニア各州に集中して投入しやすくするためとしている。顧問団の一人、ケビン・シーキー氏は「フロリダ州では郵便による事前投票受付が9月24日にスタートするため、バイデン陣営はそれまでに大々的TVおよびネット広告攻勢を仕掛ける資金を早急に必要としている。そこでブルームバーグ氏は、特定州限定の支援が、トランプを緒戦で叩きのめすための最も効果的手段と考えている」と説明している。

 ブルームバーグ氏本人も翌14日、訪問先のテキサス州サンアントニオで記者団に対し「トランプをホワイトハウスから追い出すために、今後もできることはなんでもやる」と強調、今後、他州でのバイデン候補支援にも乗り出す意向を示唆した。

 ちなみに同氏の個人資産は約550億ドルと推定されており、大統領就任前から「億万長者」を豪語してきたトランプ氏(推定財産25億ドル)とは20倍以上と桁違いの開きがある。

 過去の大統領選挙でフロリダ州で勝てず当選を果たした共和党候補は、1924年のカルビン・クーリッジ候補が最後とされ、それ以来、ホワイトハウス入りを果たした共和党候補は例外なく同州を制してきた。それだけに今回もトランプ陣営は前回同様、「絶対死守」の意気込みで作戦を展開してきた。

 その矢先の「フロリダでバイデンに1億ドル支援」の速報が伝えられた同日、トランプ大統領はただちに反応を示し「彼(ブルームバーグ)は民主党予備選で巨費を費やした挙句とっくに命脈尽きたと思っていたが、今また史上最悪でとんまな候補(バイデン)に資金を出すとは……そんなことならニューヨーク市の財政を助けるべきだ」などとツィッターで激しい反撃に出た。

 もちろん、両氏の敵意をむき出しにした確執ぶりは、今に始まったわけではない。

 もともとニューヨークを拠点とする実業家として20世紀後半から競い合ってきた間柄だが、具体的につばぜり合いが目立ってきたのは、2002年、ブルームバーグ氏がニューヨーク市長に就任し敏腕を振るい始めてからだ。

 ウォールストリート・ジャーナル紙は、二人と親交のある地元財界人の話として次のように報じている:

 「マイケルはハーバード大学卒のエリート・インテリで洗練された億万長者であるのに対し、ドナルドは目覚ましい学歴はなく、どちらかといえばブルーカラーの億万長者であり、金使いの粗さ、派手な行動を売り物にしてきた。趣味も性格もまるで好対照の二人の関係は、ブルームバーグ市政をめぐる対立にまで発展、市払い下げ公有地の買収やトランプ・ワールド・タワーに対する不動産課税をめぐる法廷闘争も繰り広げるなど、みぞは深まる一方だった」

 両者は主張、イデオロギー面でも水と油ほどの違いがある。

 トランプ氏は大統領就任以来、反自由貿易主義、自国最優先主義、同盟関係軽視、地球温暖化対策無視、人権無視の立場を鮮明にしてきたのに対し、ブルームバーグ氏は自らが所有する大手通信メディア「ブルームバーグ」などを通じ、自由貿易推進、国際主義、同盟関係重視、地球温暖化対策積極推進、人権尊重を熱心にアピールしてきた。

 そして迎えた2020年大統領選では、ブルームバーグ氏は最初から「トランプ再選阻止」を選挙スローガンの前面に掲げ自らが民主党から出馬を表明、とくに去る3月、トランプ陣営が南部重要拠点州と位置付けるフロリダ州予備選では、惜しみなく資金を投じ激しいトランプ攻撃のTV・ネット広告を有権者向けに頻繁に流した。その数か月後には、各州での予備選結果がふるわず撤退表明したが、この間に選挙戦に投じた出費総額は20億ドルにも達したという。トランプ氏も足元にも及ばない、けた外れの出費ぶりだった。

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