2024年12月14日(土)

Washington Files

2020年9月14日

 “JFKの再来”、ケネディ家“期待の星”と目されてきたジョセフ・P ・ケネディ3世が、上院マサチューセッツ州民主党予備選で番狂わせで敗退した。第35代ケネディ大統領誕生以来、70年近くも政界に多彩な話題を広げてきた“ケネディ王朝”の終焉との見方が広がっている。

ジョセフ・P ・ケネディ3世(AP/AFLO)

 同州予備選は去る1日、連邦下院議員でまだ39歳と若いジョセフ・P ・ケネディ3世が現職で3選をめざすベテランのエドワード・マーキー上院議員(74)に挑む形で行われた。

 とくに今回、ケネディ議員の出馬が全米で注目されたのは、JFKの弟ロバート・ケネディ元司法長官の孫ながら、風貌、たたずまいもJFKと似ているだけでなく、JFKも35歳の若さで下院議員から上院議員選挙に出馬し当選、8年後の1960年には大統領選で劇的な勝利を果たした足跡があったからだった。もし、同氏が上院で当選した場合、4年後、あるいは8年後にはJFK同様、民主党のホープとして40歳代で大統領選出馬も十分視野に入っていたとされる。 

 選挙戦ではケネディ議員が序盤から「ケネディ家」の知名度、親族からの潤沢な選挙資金を背景に有利な展開となり、2週間前までの地元サフォーク大学・ボストン・グローブ紙共同世論調査では、二けたの差でマーキー議員を大きくリードしていた。だが、後半に入り、急進リベラル派の論客として連邦議会で発言力を強めるアレキサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員ら民主党若手グループが、環境、医療保険問題などで進歩的主張を貫くマーキー氏支持に回り、最後は12.2%の得票差で逆転を許す結果となった。

 若手のホープ、ケネディ候補が、一族で強力な支持基盤を誇る地元マサチューセッツ州において敗退した要因は何なのか。

 第一に挙げられているのは、有権者全般に広がりつつあった‟ケネディ疲れKennedy fatigue”現象だ。その象徴的エピソードが、マーキー候補が選挙期間後半に集中的に全州で流したTVコマーシャルだった。

 マーキー候補はコマーシャルの中で、かつてJFKが59年前の大統領就任演説の中で強調した有名な一節「国が自分たちに何をしてくれるかではなく、自分たちが国のために何をなすべきかを問うべきだ」の部分を逆手にとり、「今、国が何をすべきかを問うべきだ」と訴えた。コロナ禍で国民が苦しみあえいでいる時期が時期だけに、政府の積極的施策を促すこの訴えは予想外の大きな共感を呼び起こしたという。

 これに対し、JFK同様に暗殺の悲劇にあったロバート・F・ケネディ元司法長官の妻で、ケネディ候補の祖母にあたるエセル未亡人(92)が選挙戦の終盤にTVコマーシャルを通じ「ジョン、ロバートの遺志を継ぐ頼みの星」として懸命に支持をアピールしたが、さしたる票取り付けにはつながらなかった。

 第二に、「若さ」より「経験と実績」を有権者が重視した点だ。

 マーキー氏は2013年上院補充選で初当選、翌年本選で再選を果たし、今回が3選目だったが、それ以前は、下院議員として連続19期務めてきたベテランであり、マサチューセッツ州選出の上下両院議員団議長として活躍してきた。また、過去の下院選では毎回70%近い高い得票率で当選を果たしてきたことでも知られる。

 これに対し、ケネディ氏は2012年初当選以来、下院での経験はまだ3期にとどまっており、米議会で知名度こそあれ、これといった特筆すべき実績は乏しかった。また、とくに高齢化が進む同州など北東部諸州では近年、健康保険制度の充実、年金改革などを求める声が有権者の間で高まりつつあった。

 今年の大統領選民主党予備選で、いずれも北東部のバーニー・サンダース(77)(バーモント州)、エリザベス・ウォーレン(72)(マサチューセッツ州)両上院議員が途中まで指名争いで全米で注目を浴びたのも、ベテラン政治家への支持と期待がそれだけ高かったことを示している。

 第三に、スキャンダル続きの“ファミリー政治”に対する幻滅感が挙げられている。

 とくに、ケネディ候補の場合、父親でケネディ王朝継承の最有力者と目されてきたジョセフ・P・ケネディ2世元下院議員(78)の女性スキャンダルと婚姻破棄訴訟をめぐる夫婦間の醜い対立が尾を引いたといわれる。

 しかも、その父親は今回、持てる豊富な資金を息子のためになりふり構わず注ぎ込んだことがかえって州民の反発を招く結果ともなった。


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