――ところで、本書ではあえて「負け」に焦点を当てられていますが、なぜ「負け」なのでしょうか?
(撮影:WEDGE Infinity編集部)
大元氏:それはやはり私自身の経験からでしょうか……。私は、中学校時代、いわゆる“やんちゃ”だったのですが(笑)、体育の先生に憧れて、「高校3年間で生まれ変わって、体育の先生になろう」という夢を持っていました。
ただ、高校のラグビー部の練習がとにかく厳しくて苦しくて。でも、どんなにしごかれても「負けるもんか!」と喰らいついていたのですが、高校3年生のある日、ついに心が折れてしまって……。その日一晩悩んで、練習の厳しさに堪えられない、弱い自分に気付いたんです。そしてその時、「こんな弱い人間では体育の先生になんてなれない」と夢を諦めてしまいました。
数々のスポーツを経験してきた一方で、私は本を読むのが好きで、特に司馬遼太郎さんが好きで、司馬遼太郎さんみたいになりたい、と憧れていました。でも、好きなのと自分が書くのとは大きな違いです。言うまでもなく簡単ではありません。けれども40歳を目前にしたあるとき、高校3年生の時のあの記憶が甦ってきて……、「もう負けられない! 自分から逃げるのは止めよう!」と、会社を辞める決心をしました。実際には辞めてから、「どうしよう……」と思うこともありましたが(笑)。ともあれ、そこから何とか努力してきて現在の自分がある。だから、「あの負けがあってこそ」なんです。
――それはまた一大決心でしたね。ところで様々なアスリートの方にインタビューされていますが、その際に心かげていたことはありますか?
大元氏:常に「真剣勝負」ですね。そして、その競技について私は素人であることを率直に伝えてインタビューさせてもらいました。相手は日本チャンピオンやトップアスリートですから、常にリスペクトでしたね。だから、最初は身構えていた方々も、いつの間にか打ち解けて様々なお話をしていただけました。
――特に印象に残っているインタビューはありますか?
大元氏:そうですね、例えば柔道の高橋選手です。取材申込時に広報の方から、あまり話さないと思います、と伺っていたので、質問を最小限に絞っていたのですが、いざインタビューを始めてみると、堰を切ったように、喜んで自らの弱い部分も赤裸々に話して下さって。むしろ広報の方が「こんなに話す高橋選手を見たことがない」と驚いていました。
あとは、女子バスケットボールの大神選手。大神選手は、今まで「負け」について聞かれたことがなかったそうで、だから考えもしなかったし、気付かなかったと。しかし、このインタビューを機に過去を思い出しながら話すことによって、「あの“負け”の原因が何であったか。そこから得たものは何か」、大神選手自身の整理がついた、とおっしゃっていましたね。