2024年11月21日(木)

ルポ・少年院の子どもたち

2012年7月12日

挨拶後、ウォーミングアップに励む少年たち  (撮影:編集部)

 雲ひとつない透き通るような青空が広がり、芝の整った広大なグラウンドには初夏の風が心地良く流れていた。

 そこへ生活を共にする寮ごとに2列縦隊を組んだ少年たちが歩調を合わせグラウンドに入場した。そこには一切の私語がなかった。

 寮ごとに青、黄色、オレンジ、緑色に分かれたトレーニングウェアを着て整然と並ぶ姿からは、ここでの生活がいかに厳格であるか容易に想像ができる。髪を短く刈り上げ、幼さが残る表情には外部講師たちへの不安感や緊張感が隠せない様子だ。

矯正教育としてのラグビー

 2012年6月26日 茨城県の初等・中等少年院『水府学院』では、茨城県水戸生涯学習センターの協力のもと、生涯学習移動講座として、62名を対象に「Let’s enjoy rugby」が開講された。

 講師は上田昭夫氏(TKM7:戸塚共立メディカルセブンズラグビークラブ監督)、花岡伸明氏(TKM7ヘッドコーチ)、瀬尾賢司氏(TKM7コーチ)、天宮一大氏(武蔵野東技能高等専修学校教諭)、大元よしき(スポーツノンフィクションライター)の5名が務めた。

 この「Let’s enjoy rugby」(当時は年少者・初心者向けの「タグラグビー」)は、2007年に前常総学院ラグビー部監督の故石塚武生氏の講師に始まり、その遺志を継いだ上田氏が、天宮氏と筆者の3人体制から発展させ今に至っている。

 ラグビーが矯正教育の一環として行われているのは、全国でもここ「水府学院」だけである。

ルールやチームワークを学ぶ

 この講座の「Let’s enjoy rugby」というタイトルに「なぜ、エンジョイなんだ?」と違和感を覚える読者もおられるかと思う。しかし、「少年院とは、家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、社会不適応の原因を除去し、健全な育成を図ることを目的として矯正教育を行う法務省所管の施設です(法務省HPより引用)」とある。

 少年院は「教育」が目的なので、院内では様々な授業が行われている。当然のことながら刑罰を課す少年刑務所とは異なるので、ここを混同しないように気をつけたい。あくまでも矯正教育の場であり教育を目的とした施設なので、この講座のように共に楽しみながら、ルールやチームワークを学ぶ機会も必要なのである。

 少年院の教育内容については後篇で詳細を述べることにして、今回はどのような経緯で外部の講師陣がラグビー講座を開くに至り、現在もなお継続して行われているのか、茨城県は全国でも特異なケースなのでここに話を絞って進めたい。


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