そして、「感動体験が出来るものは何だ」、「達成感を味わえるものはあるか」、そんな講座を模索した結果、2007年6月に水戸生涯学習センターの矯正施設編「生涯学習移動講座」が以下の骨子により、全国初の試みとして水府学院で行われた。異なる省庁の管轄する施設の職員同士が閉ざされていた扉を開いたのである。
1.講話(5講座・6回)
・理科及び科学教育の観点から(「おもしろ理科先生派遣事業」受講体験)
・体力向上の観点から(スポーツ界の著名人による講話及び実技体験)
・企業経営者の観点から(会社経営者の視点からの講話)
・職業従事者の観点から(従業員の視点からのパネルディスカッション)
・教育関係者の観点から(家族の絆、これからの自分さがし)
2.自主選択による生涯学習体験講座(3講座・4回)
・講座体験コース…エアロビクス体験(県民大学講師からの実技体験)
・スポーツ体験コース…サッカー体験(プロ指導者からの実技体験)
・資格取得コース…救命救急法実技体験(上級救命講習終了証取得)
この講話の中から「思いっきりスポーツ~レッツ エンジョイ タグラグビー!」が生まれた。この講師が前常総学院ラグビー部監督の石塚武生氏だった。
防具も付けずに少年たちの体当たりを受ける
講話では、己の慢心が生んだ大怪我、その怪我からの日本代表復帰、早稲田大学監督時代の大敗、そして渡英、孤独のなかで知った自分らしさなど、栄光よりも勝てなかったことや挫折から多くのことを学んだという実体験とラグビーの基本精神である「ONE FOR ALL , ALL FOR ONE(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」と「自己犠牲」について触れた。
そこには上からの目線は無かった。あったのは必死さだけだ。石塚氏はボロボロと泣き出し、少年たちもその涙に、涙で応えたのである。
講座の最後には何も防具を身に着けず、80名を超す少年たち全員から体当たりを受けた。上半身を赤黒いあざだらけにしながら、である。
社会には熱くて真剣な大人もいる
以来、年に2回の講座の中で「ONE FOR ALL,ALL FOR ONE(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」を基本的精神として、自律と自立、責任感、自己犠牲の精神、勇気、チームワーク、尊敬と信頼、利他の心、奉仕の精神、諦めない心などを、言葉を変え、形を変えながら伝え続けていった。
「今までみんなが会った大人よりも、社会にはもっと熱く、もっと真剣な大人たちがいるんだとわかってほしかった。だからこそ石塚さんにお願いしたんです。石塚さんは彼らとボロボロ涙をこぼしながら向き合ったのです。先生が泣いているんですから、参加した子たちも泣いていますよ。そういう大人たちが社会にはいるし、きっと誰かが君たちを受け止めてくれるぞというメッセージを送ってあげたかった。そのための(タグ)ラグビー講座だった」と小沼氏は当時を振り返る。