しかし、2009年8月石塚武生氏は突然死症候群により急逝。その告別式の席上、上田昭夫氏は「俺は武生の遺志を継ぐ。おまえも武生との約束を果たせ」と筆者に語った。その石塚氏と私の約束とは、スタッフ(ライターとしてではなく)として共に彼らと向き合い、ラグビーやスポーツが、どのように矯正教育の中に生かされているのか、その意義や効果を探ると共に、家庭環境や親子関係における虐待、スポーツによる挫折、学力不振など少年犯罪の背景を取材し、それを形にして発信してほしいというものである。
毎年講座は見直されるが、初回以来ラグビー講座だけは変わらずに続いている。こうした経緯で引き継がれているため、講師陣は石塚氏か上田氏の個人的な繋がりによって結ばれている者たちだ。
体当たりにこめられたメッセージ
2012年6月26日。
「ボールは生卵だと思って丁寧に扱うこと」「きちんと意思表示をすること」「ミスをした仲間を責めないこと」「慌てないで丁寧に確実にパスを放ること」など、講師陣からその都度アドバイスが飛んだ。4グループに分かれ、それぞれ協調しながら「共に」ゴールを目指す少年たち。ここに伝えたいメッセージが込められている。
(撮影:編集部)
湧き起こる歓声や拍手は明るく、普通の中学生や高校生と少しも変わらない雰囲気を持っている。その光景を見る限り、ここが少年院であることを忘れてしまうほどだ。練習のクライマックスは、講師2名がコンタクトバッグを持ち、そこを一人ひとりに体当たりで走り抜けさせた。
これには「この体当たりのように、社会にも全人格を懸けて、真っ直ぐにぶち当たって行け」という講師たちのメッセージが込められている。少年たちはみんな思い思いの声を出しながら、全力で駆け抜けて行った。
我々は2度と過ちを犯してほしくないと願う一方で、決して被害者がいることを忘れてはいない。その間で「我々にできることは何か」、「我々が伝えるべきことは何か」という答えの見つからない葛藤を繰り返している。
後篇は、少年院の教育内容を軸に話を進めていきたい。
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