2024年11月17日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月6日

 インドネシアのジョコ大統領は10月5日、投資や企業活動を阻害している様々な問題を一気に解決すべく、79の法律の改正を1つの法案にまとめた「雇用創出オムニバス法案」を強引に成立させた。この構想は、昨年の大統領再選後の8月に打ち出されていたが、その背景には、外国企業がインドネシアへの投資に全く関心を示さないことへの危機感があった。中国から工場を移転した企業の多くが、同様のオムニバス法方式で投資環境改善に成功したベトナムを選んだという。世銀やOECDの評価でもインドネシアの投資環境の評価は低い。

Lepusinensis / Roman Valiev / iStock / Getty Images Plus

 ジョコ大統領は、100日程度でこの法案を成立させるとして、膨大な数の法律が関係し地方政府や労働組合との調整が必要となる問題も多々あったにもかかわらず、今年2月には法案を国会に提出、1000ページ以上の法案をスピード審議に付して、労働組合等の強い反対にもかかわらず10月5日に成立させたものだ。ジャカルタ等では法案に反対するデモ隊が一部暴徒化し、反対運動は続いている。

 経済成長の鈍化に加えコロナ禍もあり、インドネシア経済立て直しのためのビジネス環境改善は不可欠であり、雇用創出法と銘打たれた構造改革法案には投資許認可の簡素化、企業に対する減税、労働市場の流動化、退職金や最低賃金算定方式の見直し等が盛り込まれた。これに対し、同法案は、種々の労働者の権利を害し、環境保全がおろそかにされ森林破壊等が進むとの懸念も指摘される。法案策定に深く関与した経済界に比べ、蚊帳の外に置かれた労働組合の反発は強い。

 建国100年の2045年までに先進国入りを目標とするインドネシアにとり、現状のままではむしろASEANの落ちこぼれとなってしまうとの焦りがジョコ大統領にはあるのであろう。また、大統領の任期は2期までであり、歴代大統領の悲願でもあるジャカルタからカリマンタン島への首都移転を決定するなど、ジョコ自身が、庶民派大統領から昨年の再選を契機に歴史に残るレガシーを目指す野心的な大統領に徐々に変身し始めたといえる。

 インドネシアが生き延びるためには改革は不可欠であるが、克服すべき問題は複雑で根深く、オムニバス法のような思い切った手法をとらなければ短期間に実現できないことも確かである。この法案が適用されれば企業活動にとって大幅な環境改善になる。しかし、ジョコ大統領には、汚職や利権の問題、人権や社会安定、環境保護やガバナンスの問題を重視していないのではないかとの批判がある。これらの諸問題は、今や国際投資家にとっては投資環境上の重要な要素として認識されている。

 オムニバス法については憲法上の疑義も提起されておりその成り行きには不確定要因があるが、法案についての説明が圧倒的に不足しており、反対論には事実誤認もあろう。国民に対する十分な説明を行うために施行を延期するとか、実施の過程で行き過ぎた措置が是正されるような方向で柔軟性が発揮される必要がある。この問題をめぐり国内が分断され社会不安が続くようなことになれば結局外国投資は増えない結果となってしまうであろう。

  
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