中東を読み解く

2020年12月24日

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 イスラエルの連立政権が12月23日崩壊した。右派「リクード」を率いるネタニヤフ首相と連立相手の中道「青と白」の指導者ガンツ国防相が対立する中、国会が20年度の予算案承認に失敗、規定により解散した。2年間で4度目の総選挙を来年3月23日に実施する。権力維持のため解散のタイミングを図っていた首相が予期せぬ党内の造反に遭ったというのが背景のようだ。

(peterspiro/gettyimages)

ワクチン利用し政権続投狙う

 連立政権は、1年間のうちに3度の総選挙に追い込まれていたネタニヤフ首相がコロナ危機の高まった4月、連立を拒んできたガンツ氏を「政治的対立を忘れ、国民のために尽くす時だ」と説得し、発足した。その際、ネタニヤフ氏は1年半ずつ首相を輪番で務めることを提案し、ガンツ氏も同意した。合意では、ネタニヤフ氏の任期は来年の11月までで、その後はガンツ氏が首相に就任する運びとなった。

 20年3月に実施された直近の選挙では、「リクード」が36議席、「青と白」が32議席を獲得していたため、他の政党も糾合して国会の過半数(60)を大きく上回る連立政権ができ上った。しかし、「青と白」はガンツ氏が首相と手を組んだことから内部分裂、その勢力は17議席にまで激減した。

 ネタニヤフ氏が政権の座に固執するには理由がある。首相は汚職など3件の容疑で起訴された刑事被告人の身。2月には裁判が始まる予定で、定期的に裁判所に出頭しなければならない。首相としては、有罪の判決が出た場合に備え、国会で「刑事免責」の決定を勝ち取りたいという強い願望がある。そのためには、なんとしても首相職にとどまり、影響力を行使し続けたいわけだ。

 史上最長の在任期間を更新中の首相の真骨頂は“粘り腰”だ。政治的な危機に瀕しても決してあきらめず、その都度不死鳥のように蘇ってきた。海千山千のネタニヤフ氏を知る国民の大勢は、同氏がガンツ氏との合意を守って11月に首相を退任するとは信じていない。イスラエルや米国のメディアなどによると、首相は予算案が期限内に成立しなければ、国会が自動的に解散となるという規定を巧みに使って、最終的には連立政権を崩壊させようとタイミングを図ってきた。

 首相のタイミングとは、解散になっても「リクード」連合で国会の過半数を制することが可能になるとの見通しを持てた時のことだ。首相の思い描いた通り、最近の内外政策の成果により、支持率が急上昇し、政治状況は思惑に沿った展開になっていた。コロナ禍の拡大を防止するためのワクチンの導入、アラブ首長国連邦(UAE)などアラブ4カ国との国交樹立、イラン包囲網の強化などトランプ米政権を後ろ盾にした実績が支持率を押し上げた。

 ネタニヤフ首相のシナリオは「ワクチンの接種が人々にいき渡って新型コロナウイルス封じ込めに目途が立ち、国民の支持を盤石にしてから総選挙を実施して勝つ、というものだったのではないか」(ベイルートの消息筋)。このシナリオからすると、連立政権の崩壊は春以降のはずだったろう。

 ワクチンを利用して新政権の発足を狙ったわけだが、首相の計算が狂う事態が起きた。身内のリクードの有力議員と「青と白」の一部が結託して予算案に反対票を投じた。この造反により、予算案が成立せず、首相の意図に反して突然、連立政権が崩壊する事態となった。

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