2024年12月11日(水)

中東を読み解く

2020年11月25日

 イスラエルや米国のメディアによると、イスラエルのネタニヤフ首相は11月22日、敵対してきたアラブの大国サウジアラビアを極秘訪問、ムハンマド皇太子、ポンペオ米国務長官と3者会談を行った。国交正常化問題を協議したのは確実だが、その真の狙いは「イラン核合意への安易な復帰は許さない」とする両国の意思をバイデン次期米大統領に発信するためだったと見られている。

ムハンマド皇太子(左)とネタニヤフ首相(REUTERS/AFLO)

ネタニヤフ氏、自らリークか

 会談が開かれたのはサウジ北西部の紅海沿岸に建設中の未来都市「NEOM(ネオム)」だ。紅海を挟んだ対岸はエジプト・シナイ半島の突端にある保養地シャルムエルシェイクである。ネタニヤフ首相を乗せたと思われる航空機は22日午後7時半ごろ、イスラエル・テルアビブ近郊の空港を離陸し、1時間ほどでネオムに着陸。2時間ほど滞在して午前零時ごろにイスラエルに戻った。

 イスラエル紙ハーレツなどが23日、この極秘訪問をすっぱ抜いた。ネタニヤフ首相は肯定も否定もせず、アラブ諸国との平和を拡大するよう努めているなどと述べたが、否定しなかったことは事実上認めたものと受け取られている。政敵のガンツ国防相や外務省も蚊帳の外に置かれ、事前に知らされていなかった。特ダネを書いた記者が首相とごく近い関係にあることから首相のリークと見られている。

 首相の会談の相手はサウジを牛耳っているムハンマド皇太子とポンペオ国務長官。サウジとイスラエルの国交樹立問題が話し合われたのは確実だが、トランプ政権が退場しつつある中、両国の宿敵であるイランとどう対峙していくかが最大のテーマになったとの見方が強い。エルサレム・ポスト紙などは「会談の目的がバイデン氏へメッセージを送ることだった」と指摘している。

 イスラエルとサウジにとってイランの核武装を阻止することが安全保障上の最大の懸案だ。トランプ大統領は2018年、「イランの核開発を容認した最悪の合意」だとして、「イラン核合意」から一方的に離脱し、対イラン制裁を強化した。しかし、バイデン氏は合意の内容を強化、拡充するとしつつも、核合意への復帰に前向きで、両国の懸念が強まっていた。

 このためバイデン氏の大統領就任前に両国の決意を示す「断固たるシグナルを送ること」が会談の狙いだったとの分析は合理性がある。メッセージに含まれているのは①米国の中東における最強の同盟国であるイスラエルとサウジは反イランで結束しており、2国の安全保障が最優先されなければならない②イラン核合意に元のまま復帰することには反対する③両国は国交樹立の用意がある―ということだろう。

 ネタニヤフ首相は極秘訪問直前、「元の核合意に戻ってはならない。イランに核開発をさせない政策を維持しなければならない」と表明していた。サウジのファイサル外相はネタニヤフ氏の訪問の事実を否定した。サウジの公式な立場はパレスチナとイスラエルの和平が実現した後に、イスラエルを承認するというものであり、否定せざるを得なかったようだ。


新着記事

»もっと見る