2024年12月22日(日)

中東を読み解く

2020年9月22日

 イランが米国の圧力攻勢にじっと耐えている。挑発に乗って行動を起こせば、米国の報復攻撃に口実を与えかねないからだ。11月3日の米大統領選に向け劣勢にあるトランプ大統領にとって、イラン攻撃は“オクトーバー・サプライズ”として大きなプラス材料になる。イランはそうした状況を作らないよう、ひたすら我慢作戦を続けているように見える。

(wildpixel/gettyimages)

南ア大使暗殺計画とスナップバック

 米国とイスラエルによるイランへの「最大の圧力作戦」の一環とされているのが、イランで相次いだ破壊工作と見られる火災や爆発事件だ。特に7月に中部ナタンズで起きた核施設の火災では、ウラン濃縮のための遠心分離機多数が焼失し、イラン核開発に大きな支障が出た。

 この施設はトランプ米政権がイラン核合意から離脱した後、最高指導者ハメネイ師の指示により稼働を開始した核開発の中心で、イランの報復措置も取り沙汰された。しかし実際には、イラン革命防衛隊当局者が破壊工作だと認めたものの、予想に反して米国などを激しく非難することは避けた。このためイラン側の抑制された反応にさまざまな憶測が飛び交った。

 米国はその後も、イランのハッキング活動を米大統領選に介入しようとしたとして非難したり、ハッカーらに制裁を加えたりするなど圧力を掛け続けたているが、9月に明らかになった米国の南アフリカ大使、ラナ・マークス氏の暗殺計画もイランを挑発するためだったとの疑いが強い。

 この暗殺計画は米政治サイト「ポリティコ」が報じた。内容は米国による1月のイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害の報復として、イランがマークス大使の暗殺を検討していたというもの。同大使はトランプ氏と親しい関係にある。イラン側はこれに、捏造と反発した。ニューヨーク・タイムズによると、米当局者の一部もトランプ政権がイランの脅威を過大視していると批判しており、イランを貶めるための「ためにする情報」だった可能性がある。

 米国はさらに9月19日、イラン核合意の当事国や国連安全保障理事会が認めていないにもかかわらず、対イラン国連制裁が全面的に復活したと一方的に宣言した。米国が離脱した「イラン核合意」には、イランが合意に違反した場合、過去の国連制裁を安保理で復活させる「スナップバック」と呼ばれる条項が含まれている。

 トランプ政権は10月に国連の対イラン武器禁輸措置が期限切れを迎えることに危機感を深め、「スナップバック」の発動を表明したと見られている。しかし、英仏独とロシア、中国の核合意当事国は「そもそも合意から離脱した米国には同条項を発動する権限はない」との立場だ。イラン対応における米国の孤立が際立っているわけだが、同政権はイランのへの締め付けをさらに強化する方針を示している。


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