2022年8月9日(火)

中東を読み解く

2020年9月22日

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最高指導者ハメネイ師が手綱

 こうした米国の圧力攻勢の前にイラン側は挑発に乗らないよう最高指導者ハメネイ師が手綱を絞り、引き締めを図っている。イランはソレイマニ司令官が米国のドローン攻撃により殺害された後、イラク駐留の米軍駐屯地に弾道ミサイルで報復攻撃、100人を超える米兵が脳震とうなどの異常をきたし、ペルシャ湾を中心に両国の緊張が一気に高まった。

 しかしその後、イランは慎重な姿勢に方針転換した。米紙などによると、シリア駐留のイラン革命防衛隊が相次いでイスラエル軍機の攻撃を受けた際、最高指導者ハメネイ師が報復を主張する軍部をなだめて自重させた。ナタンズの核施設が破壊工作で損傷を受けた時も、いきり立つ革命防衛隊を抑えたのはハメネイ師だった。同師が許可しているのは小規模なサイバー攻撃だけだという。

 イランが8月、それまで反対してきた国際原子力機関(IAEA)の核査察を一転して受け入れたのも、こうした抑制姿勢を反映するものだろう。国際社会に核合意を順守していることを示し、米国の圧力の不当性を印象付けるためだ。しかし、一方でイランの核合意逸脱も続き、低濃縮ウランの貯蔵量は上限の約10倍の2105キロに達している。これは核弾頭2個分に相当する。

 「ハメネイ師がトランプ政権の挑発に乗らないよう手綱を絞っているのは、米国の“罠”にはまることを恐れているためだ。うっかり挑発に乗って米国やイスラエルの権益に攻撃をすれば、米国にイランへの報復攻撃の大義名分を与えてしまいかねない」(ベイルート筋)。確かに経済制裁とコロナ禍で青息吐息のイランにとって戦争になれば、経済が完全に破綻し、宗教指導者が国を統治するという独特のイスラム体制も崩壊する恐れがある。

 もう1つ重要なことは米国にイラン攻撃を許せば、トランプ大統領が選挙宣伝に大々的に利用し、結果として再選に手を貸してしまうことになりかねない、という点だ。トランプ陣営から言えば、イランカードによる“オクトーバー・サプライズ”で大統領選に逆転勝利、というシナリオだ。こうなればイランにとって悪夢となるだろう。

 大統領選の情勢はトランプ氏が対立候補のバイデン前大統領に一貫して後れを取り、このままいけばトランプ氏の退場が実現する可能性が相当高い。「イランにしてみれば、そうした状況の中で下手に手を出すよりも、挑発に耐えて隠忍自重していれば、バイデン新大統領が誕生、米国が核合意に復帰して経済制裁が解除されるという計算がある」(同)。

 イランへの圧力を強める米国とそれに耐え続けるイランという構図が浮き彫りになる中、米原子力空母ニミッツ率いる空母打撃群が18日、ホルムズ海峡を通過してペルシャ湾に入った。革命防衛隊はこの夏、米空母に見立てた模型船を標的としたミサイル発射訓練を行っており、「即応態勢は整った」とする米軍との間で静かな緊張が高まっている。

  
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