米ニューヨーク・タイムズ(11月16日付)によると、トランプ米大統領は12日の側近らとの会合で、イランの核施設を攻撃する具体的選択肢を提示するよう要求したが、大規模な衝突に発展しかねないとして、止められていたことが分かった。大統領には、政権を去った後、バイデン次期大統領がイラン核合意に復帰することを阻止する狙いがあったのではないかと見られている。
核爆弾2個分の低濃縮ウラン
同紙によると、トランプ氏の大統領執務室でのこの会合に出席していたのは、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官、ミラー国防長官代行、ミリー統合参謀本部議長らだ。大統領がイラン攻撃案の提示を要求した伏線はあった。国際原子力機関(IAEA)が前日、イランの低濃縮ウランの貯蔵量が核合意で定められた上限300キロの8倍、2.4トン以上に達したとの報告書を公表していたからだ。
専門家らによると、核爆弾1個を製造するのに必要な低濃縮ウラン量は約1000キロ。イランの貯蔵量は爆弾2個を製造できる量に相当する。イランは最高指導者ハメネイ師が核兵器を製造しないと明言しているが、仮に爆弾の製造を決意したとすれば、4~5カ月で完成させることができると見られている。イランは、核合意前には11トンを超える低濃縮ウランを保有していたが、合意によりそのほとんどをロシアに搬出した。
イランはトランプ政権が2018年、核合意を離脱して対イラン制裁を発動した後も合意を履行し続けていたが、経済悪化とコロナ禍で昨年から合意破りに方針転換、低濃縮ウランの生産を増やし始めた。イランの核開発の中心は中部ナタンズにある核施設で、攻撃案には同施設が含まれることになるのは確実だろう。
同紙によると、トランプ氏はIAEAの報告書を受けて安全保障問題担当の側近らとイラン問題を協議、イランに対して数週間以内にどんなオプションがあるのか、どう対応すればいいのかを尋ねた。ポンペオ国務長官やミリー議長がイラン本土を攻撃すれば、軍事衝突が拡大する懸念があると進言した。会合に精通した当局者らによると、会合が終わった時には、出席者らはイランに対するミサイル攻撃案は取り下げられたという感触を持ったという。
当局者らによると、トランプ大統領がなお、イランやイラン支援のイラクの民兵組織などに対する攻撃を考えている可能性はあるという。大統領がイラン攻撃をどの程度真剣に検討していたかは不明だが、大統領選挙での敗北で残りの任期が少ない上、イラクやアフガニスタンなどからの米軍撤退を進めている時に、本気で大規模な軍事介入をするつもりはないというのが一般的な見方だ。
イランの核施設や核開発計画を完全に破壊するためには単発的な短期攻撃では不可能であり、なによりもその後のイランの報復を覚悟しなければならない。ペルシャ湾岸の米軍基地や艦船、サウジアラビアなど米同盟国への弾道ミサイル攻撃もあり得よう。
ベイルートの情報筋は「落日のトランプ氏にそうしたガッツはない。攻撃しても選挙結果が変わるわけでもない。恐らく狙いは攻撃により反米機運を高め、バイデン次期政権にイラン核合意へ復帰させないようにすることだろう。要はバイデンへの嫌がらせに他なるまい」と指摘している。