イランの石油輸出の影に中国
低濃縮ウランの貯蔵量増大とともに注目されるのがイランの石油輸出の増大だ。米国はイランと取引する第3者にも制裁を科す方針を続行しているので、欧州や日本企業はイランからの石油購入を停止したままだ。このため石油輸出に大きく依存するイランの収入は極度に低下、新型コロナウイルスの流行が重なり、経済は悪化した。米制裁前には日量240万バレルあった石油輸出は4月には、7万バレルにまで落ち込んだ。
ところが、ワシントン・ポストによると、石油輸出は9月には日量120万バレルに回復、10月も同程度を確保したと見られている。この背景にはイランが制裁をかいくぐってさまざまな手を使って石油を売却していることが挙げられるという。その中には海上での積み替えやイラク産原油として輸出する方法などが含まれているようだ。
しかし、専門家の1人は同紙に対し、石油の行先は最終的に中国の精油所につながっていると指摘している。その多くはマレーシアや他のアジア諸国、トルコなどを経由し、直接イランから輸出されたものではないように工作が行われているようだ。また米国によるタンカーの拿捕にもかかわらず、南米ベネズエラ向けの輸出も続けられている。
米国人の犠牲がレッドライン
イランのロウハニ政権としては、中国との関係を強化しながら、トランプ大統領が退場するまで石油の密売でなんとかしのぎ、バイデン次期政権と前向きに交渉して、制裁解除に持っていきたいハラだろう。その意味で、トランプ大統領が単発的であってもイラン攻撃に踏み切れば、国内の反米感情が爆発し、米国との交渉の道が絶たれてこの戦略が破綻しかねない。
しかし、イラン側がトランプ氏に引き金を引かせる恐れもある。ロウハニ大統領は特に、イランの英雄だった革命防衛隊のソレイマニ司令官が米ドローン攻撃で殺害された1周年(来年1月2日)を前に、米国への報復論が高まり、防衛隊の急進派やイラクの民兵が米軍や米施設への攻撃を仕掛けるのではないかと懸念している。
トランプ政権は「米国人の犠牲がレッドライン」としており、イラクなどで米国人が殺害されるような事態が起きれば、イラン攻撃が一気に現実味を帯びるだろう。イランではこの夏から核施設や発電所などに対する放火事件が相次ぎ、国内に潜伏していた国際テロ組織アルカイダのナンバー2の暗殺報道もあったばかり。イスラエルの情報機関モサドの工作とされており、不穏な空気が漂っている。
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