2024年4月19日(金)

中東を読み解く

2020年11月25日

なおイラン攻撃の可能性

 しかしネタニヤフ首相にとってはむしろ、国内的にはサウジとの関係改善を積極的にアピールしたいところ。首相はイスラエルの対外諜報機関モサドのコーヘン長官をアラブ各国へ密使として派遣、8月以降、トランプ政権の仲介もあり、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンとの国交樹立にこぎ着け、得点を稼いだ。コーヘン長官は今回のサウジ訪問にも同行した。

 サウジアラビアとの国交が実現すれば、首相の功績や評価はぐっと上がるだろう。サウジは世界のトップを争う石油大国であり、富裕国だ。しかもメッカとメジナという2つの聖地を抱えるイスラムの“守護者”であり、中東やイスラム世界への影響力はアラブ随一だ。イスラエルにとって、サウジとの関係正常化は政治的にも経済的にも、地政学的にも計り知れないプラスとなる。

 ネタニヤフ首相は3件の汚職容疑で起訴される刑事被告人の身。来年1月から本格的な裁判が始まるという苦しい立場にある。こうした苦境から少しでも抜け出すためにも、サウジ訪問を国内的に宣伝する必要があったわけだ。それがリークの理由だったろう。連立政権の指導者の1人で、政敵でもあるガンツ国防相は「リークは無責任極まりない」と非難している。

 独裁国であるサウジのメディアはすべて管制メディアだが、ここ数カ月、イスラエルに対する報道姿勢の軟化が目立っていた。メディアの1つはイスラエルの文化や政策を伝え、英字紙もイスラエルとUAEの国交などを歓迎。一方で国営放送が和平交渉に応じようとしないパレスチナ自治政府指導部を厳しく批判するバンダル元駐米大使とのインタビューを伝えた。今回のネタニヤフ首相の極秘訪問はイスラエルとの関係を重視するムハンマド皇太子のそうした地ならしの線上に沿ったものだ。

 米ワシントン・ポストによると、トランプ政権の任期切れが迫る中で、米国がイランの核施設に対する軍事行動を準備しているとの観測も高まっている。一部はネタニヤフ首相とムハンマド皇太子の会談にポンペオ国務長官が同席していたことが、攻撃の可能性を示唆する証拠と考えているという。

 イスラエル国会のアラブ系議員の1人は「ネタニヤフ、トランプ、サルマン(サウジ国王)の3者は地域に火を付けようとしており、全体に戦争が拡大しかねない」とツイートした。トランプ大統領は23日、バイデン政権への引継ぎをやっと容認し、政権移行が本格的に始まる見通しとなったが、退場間際の“火遊び”だけは願い下げだ。

  
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