オトナの教養 週末の一冊

2020年12月29日

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関 眞興 (せき・しんこう)

歴史作家・研究家

1944年、三重県生まれ。東京大学文学部卒業後、駿台予備校世界史講師を経て、著述家となる。『学習漫画 世界の歴史』『学習漫画 中国の歴史』シリーズ(以上、集英社)の構成を手がけたほか、著書に『読むだけ世界史 古代~近世』『読むだけ世界史 近現代』(以上、学習研究社)、『総図解 よくわかる世界の紛争・内乱』『さかのぼり世界史』(以上、新人物往来社)、『30の戦いから読む世界史』『キリスト教からよむ世界史』(以上、日経ビジネス人文庫)、『19世紀問題 近代のはじまりを再考する』(PHP研究所)、『世界史の流れをつかむ技術』(洋泉社)など多数。

グローバリゼーションの歴史的副産物だった「病気」

 文明発祥の地であるメソポタミアは、穀物のほかは何の資源もないところでした。より高度な文明を築き、支配層がその権威を高めるための鉱物や珍奇な物資は、周辺の各地に頼らなければなりませんでした。その結果、人々の交流の範囲が広くなっていきますが、都市や領域国家へと拡大し、その過程で激しい戦争も行われます。

 前6~4世紀のアケメネス朝ペルシア帝国、前4世紀のアレクサンドロス大王のマケドニア王国、そして前1~後4世紀ころのローマ帝国など、古代帝国の大版図は、そこでのヒトやモノの交流の円滑化のために実現されたものであり、実際に経済のみならず文化も交流します。

 おりしもそのような時代の中国では、秦に続き漢帝国の下での安定が実現され、東西を結ぶシルクロードが形成されます。途中から南下してインドも含め、そのルートは多くの人々に中継されて東西世界を結んだのです。「グローバリゼーション」という言葉を使うにはあまりにささやかですが、ささやかなりに世界は結ばれていたのです。

 そのシルクロードを中心に、13世紀、モンゴルが東ヨーロッパまでの世界を席巻しました。モンゴルがもたらしたものはいろいろあったのですが、彼らの征西が黒死病の西方世界への拡大の遠因になったことは有名です。

 グローバリゼーションの過程で大きな位置づけをされるのがコロンブスの新大陸「発見」です。この時代にも新大陸と旧大陸の間で「病気」の相互伝播があったこともよく知られます。

 ヒトの動きは経済だけではないのです。文化はもちろん、「病気」という厄介なものまでがついてまといます。その病気の蔓延に対して近代的な医学を知らない人間は無力でした。しかし、無力ではあっても、その中から新しい世界を生み出していくのが人間の叡智でもあります。

 たとえば、しばしば話題になる黒死病ですが、それによる人口減や経済の低迷の中で、中世から近世への新しい動きが出てきます。封建制に替わる新しい政治体制が模索されます。あるいは人間の真実を見極めようとする人々が出てきてルネサンス文化が花開きます。その傾向は、古代から中世に大きな力をふるったキリスト教会の権威も大きく揺るがしていきました。

 教会の束縛を離れ、ヨーロッパでは国民国家が形成され、さらに伝統的な国王に替わって市民が政治的実権を持つ政治体制が生まれます。あわせて経済的利益を求める声も大きくなっていきます。いつの時代にも貧困はあるのですが、経済の発展が貧困をより拡大する社会の現実も明らかになっていきます。

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