オトナの教養 週末の一冊

2020年12月29日

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関 眞興 (せき・しんこう)

歴史作家・研究家

1944年、三重県生まれ。東京大学文学部卒業後、駿台予備校世界史講師を経て、著述家となる。『学習漫画 世界の歴史』『学習漫画 中国の歴史』シリーズ(以上、集英社)の構成を手がけたほか、著書に『読むだけ世界史 古代~近世』『読むだけ世界史 近現代』(以上、学習研究社)、『総図解 よくわかる世界の紛争・内乱』『さかのぼり世界史』(以上、新人物往来社)、『30の戦いから読む世界史』『キリスト教からよむ世界史』(以上、日経ビジネス人文庫)、『19世紀問題 近代のはじまりを再考する』(PHP研究所)、『世界史の流れをつかむ技術』(洋泉社)など多数。

ヒト・モノの交流に支障をきたすロックダウン

アレクサンドロス大王(左)(Photos.com/gettyimages)

 新型コロナウィルスが拡大し始めたころ、「パンデミック」や「クラスター」など、かなりの危機感を含んだ言葉が一般化しました。「ロックダウン」もその一つです。

 よく似た言葉に「ロックアウト」がありますが、これは労働争議で、会社側が労働者を締め出す戦術をいいます。ロックダウンの語源は、刑務所内で暴れた囚人を、独房に移すことです。

 現代では、市民を危険から守るための「都市封鎖」と訳されます。市民が都市を離れることはもちろん、外部の人が都市に入ることも禁止します。さらに、都市内でも市民の活動は制限されます。ロックアウトにまで至らなくても、コロナ禍では「ソーシャル・ディスタンス」が市民に要請され、人と人との交流は極めて制限されているのが現状です。

 このような政策は法的規制(罰則)を伴って行われるのが特徴です。その結果、日常生活に多くの不便が強いられるようになり、庶民レベルの経済活動も不自由なものになります。 これが発令されると、国家間にも問題が生じます。ヒトはもちろん、モノの交流にもいろいろな制限が加えられ、その結果、重大問題になるのは経済活動です。輸出や輸入ができなくなることは、恩恵を受けている消費者はもちろんのこと、それに従事している人々だけでなく、各国の輸出品・輸入品の生産者にまで影響が拡大していきます。

 過去、人類は、何回も「不況」を経験してきました。経済的な原因だけではなく、戦争による荒廃や、病気の蔓延、自然災害による社会不安などもありました。人類の歴史で、安定・平和が続いた時代は少なかったのが現実です。また、内戦などの混乱でなす術を失った人々が居住地を離れ、各地に流出・分散し、世界では難民問題が発生しています。

 都市封鎖と訳されるロックダウンですが、逆に都市から、病気や文化などの違いを理由に人々を追放してしまうこともあります。中世に見られたユダヤ人の追放などはこれにあたりますが、現代でも民族や宗教的対立などから、これに近いことが行われているといえます。

アフリカで生まれた人類が「移動」で生存範囲を広げるまで

 そもそも人類の歴史はロックダウンとは逆、つまり「移動」の中で作られてきました。話を進めるため、ここでは「ロックダウン」という衝撃的な言葉から少し離れて、駆け足で歴史を振り返ります。

 近年、新しい説も紹介されていますが、人類誕生の地はアフリカといわれています。人類はアフリカから脱出し(出アフリカ)、進化しながら、世界各地に生存範囲を広げていきました。

 その人類にとって大きな転機になったのは、今から1万年ほど前の「農耕の開始」です。それまでの数百万年にも及んだ狩猟採集の放浪生活に対して、農耕は生活のあり方を根底的に変えます。

 定住生活が可能になったことで集落から始まり、都市が建設されるようになります。あわせて、新しい発明・技術の改良などが進み、余剰生産物、つまり、人間の生存に必要な量以上の収穫物を手にすることができるようになります。

 その余剰生産物は人間社会のあり方を変えていきます。集団と集団の間で交換されるようになります。つまり商業が始まるのです。

 そのような動きは量的にも地域的にも拡大されていきました。最初は武器や農具を作るための必需品だったものが、指導者の権力を誇示するための奢侈品にまで拡大されていきます。

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