2024年11月23日(土)

復活のキーワード

2012年9月10日

国際的な会計基準の違いが、日本企業を不利にしている。
M&Aにおいて日本基準では「のれん代」を償却するが、IFRSでは必要ない。
資金調達においても国際基準の会計を使った方が容易だ。
他の基準づくりの分野同様、日本のガラパゴス化を進行させてはならない。

 円高を生かす─。政府は昨秋から、円高対策の一環として「円高ファシリティ」を始めた。外国為替特別会計から財務省所管の国際協力銀行(JBIC)を通じて、海外で合併・買収(M&A)を行う大企業にドル資金を融資する仕組みだ。10兆円規模の融資枠を設定、貸し出しを始めている。当初は今年9月末までの時限措置だったが、さらに延長する方針だ。

 政権交代以降、民主党政府は繰り返し為替介入などを実施したが、すぐに効果が息切れして円高となる悪循環が続いた。そうしたことから、中長期的に円高メリットを取り込む戦略に転換したわけだ。

 総合商社が鉱山や油田などを買収したり、製薬大手が海外の創薬ベンチャーを傘下に収めたりすることを後押ししようという狙いだ。言うまでもなく日本は資源小国で、エネルギーの確保は重要課題。今では輸入額の3分の1を原油などエネルギーが占め、貿易収支の足を引っ張っている。同じく輸入依存が急速に高まっている製薬でも、国際的な業界の“常識”となったM&Aを避けて経営はできない。

 いわば、国を挙げてM&Aを後押しする戦略だが、M&Aを巡る企業間の国際競争で、日本企業を著しく不利にしている要因がある。国際的な会計基準との違いだ。

 企業を買収した際、帳簿上の資産価値よりも高い価格で買収するのが一般的だ。その買収額と帳簿価格の差を「のれん代」などと呼んでいる。日本の会計基準ではその差額を20年以内で償却、つまり費用として計上することになっている。ところが、国際会計基準IFRSでは、のれん代は無形資産として帳簿には記載するものの、償却はしないルールなのだ。

 例えば、のれん代が2兆円発生する巨額の買収をした場合、日本基準に従って20年で償却すると毎年1000億円規模の費用が発生する。当然のことながら利益を大きく圧迫するわけだ。IFRSを使っていれば、原則としてこの負担が生じないため、経営者としては大型のM&Aに打って出やすい。

 日本政府は当初、2015年前後のIFRS導入義務付けを想定して12年中に結論を出すとしてきた。ところが反対論の台頭で、方針を決める企業会計審議会の議論が長引き、会計基準の扱いが決まっていないのだ。


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