アジアの国々でも通用するのはIFRS
日本企業へのIFRS義務付けに反対する声の中には、国際化に対応するのは大企業だけで十分だ、という主張がある。だが、日本の人口が減少に向かう中で、事業の成長を追い求めるにはグローバル展開が不可欠だ。これは企業の大小に関係ないだろう。
さらに、金融情勢が混乱すれば、中堅上場企業の資金繰りが最も厳しくなる。大企業は手元資金が潤沢なうえ、主要取引銀行であるメガバンクも強力にサポートする。リーマンショック直後にドル資金が用意できず冷や汗をかいた中堅企業は少なくない。
成長市場であるアジアでの展開を急ごうと思えば、アジア市場での株式上場や社債発行などが不可欠になる。アジアの国々で通用するのはIFRSだ。
希望する企業だけIFRSを使えばいい、という反対論もある。現在、日本では、日本基準のほか、米国基準とIFRSの利用も認められている。現状のまま、国が方針決定を先送りすれば、事実上、国内に3つの基準が乱立する状態が続く。
これでは同じ国内の上場企業でありながら、決算書の比較が簡単にはできない。同じ日本の資本市場にいながら、ルールが違うとなれば、資本市場自体の質が問われることになる。そうでなくとも、日本の資本市場の地盤沈下は著しい。
日本の基準を世界に認めさせることが国益だ、という主張もある。日本の公認会計士や証券アナリストなどは、IFRSの議論が始まった40年近く前からの創立メンバーで、現在も基準を決める組織に評議員2人と理事1人を送っている。
国際基準の設定になかなか関与できない他の分野と違い、日本が基準決定や組織運営に大きな影響力を保持している数少ない領域なのだ。「会計は文化だ」として日本基準を残すことだけに固執した場合、これまでの努力が水泡に帰すばかりでなく、他の基準づくりの分野同様、日本がガラパゴス化することになりかねない。
のれん代を償却する日本基準の方が学問的には正しい、と主張する学者もいる。確かに論理的にはそうかもしれない。だが、日本企業が国際競争に晒されている中で、会計基準が企業の足を引っ張ってよいのか。鎖国をして日本経済がやっていけないのは自明な以上、競争のルールを国際基準にそろえるのは当然だろう。
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