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2021年2月2日

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八塚正晃 (やつづか まさあき)

防衛省防衛研究所地域研究部中国研究室研究員

1985年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。在香港日本国総領事館専門調査員、外務省国際情報統括官組織専門分析員などを経て、2016年より現職。専門分野は中国政治外交(史)、東アジアの国際関係論など。

平時に進める智能化への準備
既に尖閣や中東で「蓄積」

 人民解放軍は今後、智能化兵器を用いた実戦的な訓練や演習を実施するほか、周辺地域での哨戒活動で無人機や智能化装備を運用したり、紛争地域へ智能化武器・装備を積極的に輸出していく可能性がある。

 一般的に軍事における革命は実戦を通じて飛躍的に進むとされるが、実戦場面がないため、中国は何か有事がない限り、平時において智能化戦争への適応を進めなければならない。AIの判断能力向上のために良質なビッグデータを用いた学習が必要であり、智能化装備の実戦に近い運用データの蓄積が重要となろう。

 中国の周辺海域では高圧的な中国海警や活動範囲を広げる漁民などの活動が注目されるが、今後はこうした権益主張活動が智能化された無人機によって担われるケースが増えるかもしれない。中国国内の議論では、軍事の智能化を推進することで、無人機による哨戒活動における人員の削減、突発事件におけるAIによる的確な対処などが可能になるとの期待がみられる。

 既に日本の周辺海域においても17年5月に尖閣諸島の領海内において中国の小型無人機が一定時間飛行し、18年4月にも中国の偵察用無人機と見られる航空機が尖閣諸島北側の日本の防空識別圏内を数時間にわたって飛行する事案が発生している。

 また、世界における無人機の輸出の半分以上を中国が占めており、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクなど中東諸国では既に中国製の武器搭載可能な無人機が実戦運用されている。こうした周辺地域での運用や紛争地域への智能化兵器の輸出・運用など、いわば疑似的な実戦経験を通じて、データの補完・充実を図っていく可能性がある。

 智能化戦争への適応をいち早く実現するためには、先端科学技術を迅速に軍事利用する国防技術開発体制の構築が重要となる。この観点から習近平政権が15年から国家戦略として進める「軍民融合発展戦略」は注目される。

 今までのような経済成長を背景とした国防費の増加が望めない中で、より広範な民間のイノベーションを国防産業に取り込むことが軍民融合発展戦略の発想である。また、核心技術の自主開発を軸に国防産業の国産化を促すことも目指されている。同戦略では海洋・宇宙・サイバー・バイオ・新エネルギーに加えてAIが重点領域に位置づけられている。

 他方で、中国は智能化を進める過程で様々な課題にも直面するであろう。人民解放軍は従来、軍事先進国のキャッチアップを通じて軍事力を強化してきたが、智能化戦争への発展プロセスでは新たな軍事における革命を先導しなければならない。米中技術覇権争いの影響で先進諸国において対中貿易投資規制が強まる中、今後人民解放軍は自力で軍事における革命を進める資源をどこまで有しているのだろうか。

 これに加えて、AIなどに通じた専門人材の需要が民間で急速に高まる中、政治教育を重視する軍が専門人材を育成・確保することは一層難しくなるだろう。より大きな問題として、AIにどこまで作戦指揮・戦略決定を担わせるかという議論は、人民解放軍に対する中国共産党の政治的支配という正統性に大きな疑問を突き付けることにもなるだろう。

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