WEDGE REPORT

2021年2月2日

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八塚正晃 (やつづか まさあき)

防衛省防衛研究所地域研究部中国研究室研究員

1985年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。在香港日本国総領事館専門調査員、外務省国際情報統括官組織専門分析員などを経て、2016年より現職。専門分野は中国政治外交(史)、東アジアの国際関係論など。

(出所)防衛省・外務省資料、各種報道を基にウェッジ作成 写真を拡大

 AIの軍事利用は、国際安全保障環境に大きな影響を及ぼしうる一方で、現時点でこれを規制する国際法はない。こうした中、ジュネーブ国連本部で特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みにおいて、19年11月に自律型致死性兵器システム(LAWS)を国際的に規制するための議論の指針が初めて合意された(右表)。LAWSは現時点で世界において存在しないと言われるが、この議論の動向は将来の智能化戦争の在り方に影響を及ぼすであろう。

 中国政府は、同指針の合意に対して賛同の意を表明している。だが、他方で智能化戦争への適応をいち早く進めるためにAIの軍事利用に係る研究開発を進めていくであろうし、自国の軍事的な優位性を確保するという観点から同規制の議論へ影響力の行使を狙うであろう。また、CCWは原則として武力紛争時を対象としているため、LAWSに係る新たな条約が成立したとしても、中国の運用が予想されるような平時の哨戒活動や烈度の低い紛争での利用には適用されない可能性がある。

無人機発進への対応で体力消耗
米欧巻き込んだコンセンサスを

 以上のように、人民解放軍が智能化戦争への適応を進めていることは、日本の安全保障へ大きな影響を及ぼしうることは明らかである。例えば、前記した18年4月の偵察用無人機の防空識別圏内での飛行に対しては、航空自衛隊が有人によるスクランブル発進をかけており、いわば〝有人対無人〟の遭遇という非対称な状況が現実に生起している。

 今後、無人機による防空識別圏への進入を頻繁に実施して日本側にコスト・インポージング(相手に負荷をかけて力を消耗させること)することも考えられる。さらに、無人機が遠隔操作ではなく汎用型AIを搭載して自律的に周辺海空域で運用され始めた場合、現場の対応をより一層複雑にし、不測の事態を招きかねない。

 これを踏まえれば、日本は多層的な取り組みを通じて安定した国際安全保障環境作りを急ぐ必要があろう。例えば、日本政府は、智能化へ向けた中国の動向や将来戦のあり方に対する研究を深めるとともに、様々な可能性を想定した対処方針や法的整備を検討しておくことが求められる。

 また、中国との二国間関係では、日中高級事務レベル海洋協議や日中海空連絡メカニズム年次会合・専門会合など既存の対話枠組みの活用・充実を通じて、周辺海空域における無人機やAI兵器の利用に係る共通認識の形成や不測の事態を招かないよう透明性の確保と危機管理メカニズムの改善を図るべきだろう。

 さらには、無人機やLAWSをめぐる国際規範の形成プロセスへ日本政府・専門家が積極的に参加して国際的な議論をリードするとともに、共通の認識を有する米欧豪や新興諸国との間で議論を深めて早期のルール形成を図ることも必要になるだろう。

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Part 2       従業員、役員、再投資を優先 新しい会計でヒトを動機付ける       
Part 3       100年かかって、時代が〝論語と算盤〟に追いついてきた! 
Part 4     「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
Part 5       現場力を取り戻し日本型銀行モデルを世界に示せ    
Part 6/1    三谷産業  儲かるビジネスではなく良いビジネスは何かを追求する    
Part 6/2    ダイニチ工業  離職率1.1% 安定雇用で地域経済を支える   
Part 6/3    井上百貨店  目指すは地元企業との〝共存共栄〟「商品開発」に込める想い       
Part 6/4    山口フィナンシャルグループ  これぞ地銀の〝真骨頂〟地域課題を掘り起こす
Part 7       日本企業復活への処方箋 今こそ「日本型経営」の根幹を問え

  
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◆Wedge2021年2月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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