習近平国家主席は、2020年12月31日夜、中央広播電視総台とインターネットを通じて、新年のあいさつを行った。ポイントをまとめながら、筆者なりにいくつかのキーワードに当てはめて読み解いてみたい。
新年挨拶の内容その一、「克服」
最初は2020年の振り返りからである。筆者なりにまとめれば、まずは「克服」だ。新型コロナウイルス感染症に対して一致団結して困難に立ち向かい対抗してきたことが讃えられた。
実際、中国の対応は強力であった。多くの先進国が新型コロナウイルス問題を、「経済」問題として捉え、失われた所得を補填するという形式を採った一方で、中国は同問題を「社会」問題(その延長線上の医療問題)として捉え、他国に先駆けて国内経済の落ち着きを取り戻そうと物理的かつ強制的な制限を多く行った。
そのコストも比較的低く済んだ。2020年10月時点でのIMFによる新型コロナウイルス感染症への経済対策の金額が対GDP比率で中国は4.6%と日本(11.3%)や米国(11.8%)と比べて低く済んでいる。
新年挨拶の内容その二、「達成」
次に「達成」がある。経済面では2020年の国内総生産(GDP)が100兆元の大台に到達する。科学面では火星探査機「天問1号」、月探査機「嫦娥5号」、有人潜水艇「奮闘者」号の活躍がある。
この「達成」は他国にとっては警戒すべき事項でもあろう。目下、アメリカの大統領交代により、米中関係改善を期待する声が市場関係者には多いが、トランプ大統領が就任した当時、月からサンプルを持ち帰るほどの技術が中国にはなかった。技術競争相手という意味での警戒感は間違いなく上がったところから始まっているという点には注意が必要である。
「達成」にはまだ続きがある。「最も硬い骨(最も困難な課題)」とされてきた「深刻な貧困の砦」である。8年を経て、農村貧困人口1億人がすべて貧困から脱却したとされている。
だがその「達成」は「新たなる始まり」に過ぎない。それをしっかりと定着させ、共に裕福になるという目標に向かって安定的に前進する、とされている。
この最後の点は重要である。農村部と都市部の所得格差という問題はまだ残されている。可処分所得ベースで都市部は農村部の2.64倍(2019年、中国国家統計局)だ。その差を埋めていくことも示唆されていると筆者は考えている。
そのための政策の一つが消費刺激策だ。中国国務院は2020年11月18日に消費拡大策を発表した。その内容はまず(1)自動車だ。一定条件を満たした農村部に関し、3.5トン以下の貨物車、排気量1600cc以下の乗用車に補助する。また旧排ガス基準「国3」以下の自動車を新車に買い替えることを奨励する。
次に(2)家電製品や家具。古い家電や家具を排除し、グリーンインテリジェント家電や環境に配慮した家具の購入に補助金。共に対象が農村部となっていることからも、同政策が経済浮揚効果のみならず、都市部と農村部の格差縮小も指向されていることがわかる。
新年挨拶の内容その三、「前進」
貧困が消えても、中国の平均所得は先進国と比べて決して高いとは言えない。例えば一人当たりGDPで言えば中国は1万582ドルと、日本の3万9048ドルや米国の6万3051ドルと比べてまだまだ低い(2020年、IMF)。今後のさらなる発展に向けた「前進」が必要になるわけでもある。
2021年は中国共産党建党100周年に当たる年だ。そのような年に、「初心を忘れず、使命を心に刻み、風に乗り波を切り、帆を上げて遠方を目指す」のが「中華民族の偉大なる復興」である。
「中華民族の偉大なる復興」とは何か。明確な定義があるわけではないが、2017年10月の共産党大会で、建国100周年である2049年を目途に、「社会主義現代化強国」「総合的な国力と影響力で主導する国家」を建設すると宣言したことが参考になるだろう。
より具体的には、2020年から2035年の15年を「社会主義現代化を実現する時代」、2035の15年を、「中国を富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国に築き上げる時代」としている。そのための最初の年が2021年なのである。「道のりは長くとも、奮闘あるのみ」、これが最後のメッセージであるようだ。