行政誘導型・協議会型・
差し込み型
一般に移転計画にはこの3つの型がある。平野部のように大規模な集約が可能な場合は市町村が移転者の希望を考慮して、候補地を確保し、計画を作成・実施する(「行政誘導型」)。近隣への小規模移転が多いリアス式海岸市町村は移転希望者が協議会を作り、事業を進める(「協議会型」)。多くの市町村がこの両方を採ったが、時間の経過とともに多くの移転希望者が小規模な協議会型から大規模な行政誘導型へと移行していき、その結果、小規模な開発事業はますます小さくなった。漁村の住民には漁業以外を職業とする人もいて、港から離れることに抵抗のない世帯も少なくなかった。
結果として、行政誘導型の団地は計画通りに立地したのに対し、協議会型の移転地には戸数がわずか1戸というケースさえ生じた(旧雄勝町分浜)。
一方、大船渡市などで行われた「差し込み型」移転計画という興味深い手法がある。集団移転の1地区の最低戸数は04年の新潟県中越地震以降10戸から5戸に緩和されていた。今回はこれを拡大解釈し、2戸+3戸の2地区としたり、さらに分離したりすることによって、被災しなかった近隣の地区に点在する空き地を集団移転地とみなすものだ。この方法は被災者が近隣のコミュニティーに加わることで孤立せずにすみ、大規模移転の場合と同様にコミュニティーを継続できるという利点がある。
防災集団移転事業
見えてきた課題
これらのことから、今後大規模な津波が予想されている東海・東南海の沿岸地域に対して以下4つの提案をする。
①復興が遅れた最大の原因は大規模な事業の経験がなく、十分な行政能力を持たない市町村に膨大な復興事業の全責任を負わせてしまったことである。事業の主体は自治体にあるとしても、国の地方整備局、地方農政局、地方経済局や各県の関連部署が全面的に協力できる体制とするべきだ。オーストラリアでは「災害管理法」で平時からあらかじめ支援組織が規定されている。自治体ごとの組織や予算を保証する、恒久的な「災害管理法」のような立法を提案するべきだ。
②沿岸部では漁港と一体となった多くの小規模集落があり、港から離れた地域への集約移転が困難であることは事実だ。しかし、長期的なコミュニティの存続に配慮すれば、本来なら行政が主導して大規模な集約移転を推進すべきだろう。
一方で、防潮堤を建設してくれるなら(あるいは、建設しなくても)被災地に住み続けたいという人が相当程度いることも事実である。冒頭に述べたとおり、東日本大震災では、被災地域の大半を「災害危険区域」に指定し、住宅の建設ができない区域に指定し、移転にかかる費用も膨らみ、時間もかかった。どうしても被災地に残りたいという人を根拠なく移転させるのは、人権の問題もあるから、防潮堤の建設を前提として、北海道の奥尻島が実施しているように、浜の近くに住み続けることを希望する住民に対しては、自由意思で残れるよう、居住の制限はなくすべきである。そうすれば、移転地が減少し、膨大な費用が節約できるようになる。