金正恩の戦略の中核は、核開発により外国の軍事圧力から金体制を守り、国内弾圧により国内不満を抑えることである。そして、金一族は、繁栄する市民経済を望んでいない。経済の軍事化と資源の永続的な希少性こそが、権力を中央に集中させるからである。
バイデン政権も、こうした北の戦略は十分に理解しているだろう。問題はその中で実行可能なオプションを見つけることであるが、これは難問である。北は経済繁栄を望んでいないのであるから、制裁により何らかの「非核化」を受け入れさせることは簡単ではない。
ハドソン研究所のミード特別研究員は、3月8日付けウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘How Do You Solve a Problem Like Korea?’で、「中国は、決して北が不安定化するほどの制裁は同意しないだろう」、「金一族は経済圧迫に簡単に揺らぐことはない」などと指摘しつつ、「自分の戦略が成功しているとの金正恩の信念を揺さぶることができない限り、バイデン政権は前任者たちと同様になかなか勝ち札を手にすることができない」と述べている。
対北政策は、当面、交渉で解決するために粘り強く圧迫することしかないように思える。同時に、考えられる危険には準備を整え、あらゆる対応策を検討しておくことが必要だろう。既に、バイデン政権は水面下で北朝鮮に接触試みたと報じられている。ただし、北側からの反応は得られていない由である。いずれにせよ、バイデン政権の一定の考えは伝えておく必要がある。バイデン政権としては、引き続き、交渉チャンネルの維持、非核化やリスク軽減措置などに関する北の反応を見ていくことが重要である。
北朝鮮への対応を巡っては、韓国の動きも厄介であり、重要なファクターとして注視する必要がある。文在寅の政策は国内外で閉塞しており、今年のソウル市長や釜山市長の選挙、来年の大統領選挙を控えて、北朝鮮政策を選挙対策に利用したがっている。主要閣僚も左派特有の対北宥和の積極発言を続けている。韓国の国防政策は、北に対して甘いと批判されている。2月24日付朝鮮日報社説は、韓国軍は内部崩壊の状態にある、とまで指摘している。また、金正恩の訪韓や更なる米中会談の可能性などを示唆し、北に媚びている。文在寅は、米韓軍事演習を北と協議することが出来るなどと述べた。即応体制や抑止の強化のためには実践演習が不可欠であるにも関わらず、米韓の野外演習は今年を含め3年連続で中止され、机上演習にとどまっている。
いずれにせよ、バイデン政権が軽々に動くことは予想されない。しかし、バイデン政権は静かに綿密に検討しているはずであり、その過程で日本など同盟国とも協議をしているだろう。日本もそれにきちっと関与、対応していくことが重要なことは言うまでもない。
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