2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月1日

 元米国NSC(国家安全保障会議)アジア部長で、現在シンクタンクCSISの上級顧問及びジョージタウン大学の教授をしているヴィクター・チャが、1月16日付のワシントン・ポスト紙に、「北朝鮮はバイデン政権の最大な課題の一つになる、それは核だけの問題ではない」と題する論説を寄せている。

Darryl Fonseka / iStock / Getty Images Plus

 チャは、今後の北朝鮮危機は核に加えてパンデミック、経済の崩壊という問題が複合合体した危機になる可能性があり、注意を要すると述べている。最悪の場合、核管理の緩みのリスクがあると言うチャの指摘は注目される。

 北朝鮮のウイルス感染は、不透明な所が多いが、様々な情報を総合すると、軍部等を中心にかなり起きていると見るべきであろう。感染者は3万人を超えるとの報道もある。同時に、高度に統制された経済等のため、パンデミック耐久能力は却って高いことを割り引いても、経済は大きく打撃を受けているものと思われる。

 注意深く北朝鮮の出方を見ていく必要がある。変数が増えることは、北朝鮮問題の解決・管理の観点からは突破口を開く機会になることも意味するかもしれない。核問題だけではなかなか突破口を開くことが困難になっている。人道支援をオープンにしておくことも有益と思われる。しかし、国連安保理制裁を含め制裁措置は厳格に維持していくことが不可欠だ。

 1月5日から12日まで北朝鮮の労働党第8回大会が開催された。1月17日には最高人民会議が招集された。注目点を、以下に列挙しておく。なお、1月10日深夜には軍事パレードを挙行し、SLBM北極星5(真偽については疑義が示されている)と短距離ミサイル「イスカンデル」改良型を披露した。

(1)金正恩は総書記に就任した。金与正は党第1副部長から副部長に降格された。しかし対韓国政策を統括するとされているので実権に変化はないだろう。

(2)経済につき、金正恩は昨年終わった経済5カ年戦略の目標は「ほぼすべての部門で遥かに達しなかった」ことを認めるとともに、科学技術など新たな5カ年計画の目標を提示した。

(3)対米関係につき、金正恩は、「最大の主敵である米国を制圧し、屈服させることに焦点を合わせる」と対決姿勢を示し、「新たな関係樹立のカギは米国が敵視政策を撤回することにある」、「核兵器の小型・軽量化を発展させて戦術核兵器を開発し、超大型核弾頭の生産も持続的に推し進める」と述べ、「核先制、報復攻撃能力を高度化する目標」を明らかにした。

(4)対南関係について、金正恩は「現在の形勢と変遷した時代的ニーズに合うよう対南問題を考察し、対外関係を全面的に拡大・発展させるための党の総的方向と政策的立場を明らかにした」と伝えられた。これを韓国の一部専門家は、「通米封南(韓国を排除して米国と交渉)でなく先南後米(韓国と関係を改善して米国と交渉)戦略を選択する可能性がある」と分析している。しかしその後金正恩は対南強硬姿勢を警告、同時に「南朝鮮当局の態度によって、いくらでも近いうちに北南関係がまた3年前の春のように、すべての同胞が念願するように、平和と繁栄の新しい出発点に戻ることができるだろう」とも述べ、要するに硬軟両様の考えを述べている。

(5)韓国の文在寅大統領は、1月18日の年頭記者会見で、金正恩の訪韓について、「南北の間で合意した事項」であるとして「いつか行われることを期待している」、「いつ、どこでも金委員長(総書記)に会う用意があり、出会いが継続され、信頼が構築されればいつか訪問も行われると思う」と述べた。更に「金委員長の平和に対する意志、対話に対する意志、非核化に対する意志は明確にあると思う」と強調した。また「朝米が緊密に対話をすれば十分に解決策を見つけられる」と話した。文在寅の現実離れした南北第一主義、楽観主義は少しも変わっていない。

(6)韓国は、南北関係打開等のために今年開催の東京五輪の機会を利用したいと考えているように思われる。米大統領選直後の11月上旬に訪日した朴智元(国情院長)は、金正恩を東京に招待し、南北・米・日首脳会談を開催する方策を打診したという。またその直後に訪日した金振杓(韓日議連会長)は、東京五輪が終わるまで日韓問題を封印したらどうか、その間五輪で日韓協力を進めたらどうかと提案したと言う。しかし平昌冬季五輪を契機とするトランプ・文在寅・金正恩プロセスは、失敗したシナリオであり、それは非現実的である。文在寅政権の狭隘なアジェンダ推進は、引き続き注意を要する。

  
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