2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月12日

 韓国の文在寅政権は、バイデンの勝利に慌て、今後の対米、対北、対日、対中関係等につき外相更迭や文在寅の発言等で政策転換を模索している。韓国の大手メディアや野党は、文在寅政権への批判を強めている。1月22日付けの中央日報社説「韓国政府、『韓米同盟が最優先』と表明すべき」もその一例で、文在寅政権の外交姿勢を厳しく批判し、南北ではなく同盟を最優先にすべきである、対日関係も改善すべきである、「クワッド(日米豪印の協力の枠組み)」にも参加すべきである、などと言っている。議論としては全くの正論である。

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 しかし、これらのことは、言葉では出来ても、行動ではなかなかできないだろう。それは文在寅政権の基本政策と衝突するからである。今の左派政権の基本が、南北第一であり、日米中の中でのバランス外交であり、歴史と絡めた対日強硬姿勢であることは、政権発足当初から明白だ。それでも韓国の有権者は昨年4月の総選挙で与党に圧勝を与えた。現政権の中枢は、80年代の学生運動活動家である(例えば南北融和一直線の李仁栄統一部長官)。文在寅と奇妙な同根性を持っていたと考えられるトランプとの間でさえ相互不信感は拭い切れなかった。正統派のバイデン政権との間では言葉で曖昧に処理することはできないだろう。しかし、韓国が実際に少しでも変わるのであれば少なくとも歓迎されることであり、日本は引き続き辛抱強く米と連携の上、韓国と関与していくことが重要である。

 1月20日の康京和から鄭義溶への外相交代にはやや驚かされた。康京和については数か月前からその気配はあったが、その後落ち着いていた。韓国メディアは、理由として、バイデン政権への準備と北の金与正による要求への対応(12月上旬の北朝鮮のコロナに関する康京和発言に対し金与正は「対価を払わせる」旨発言)を挙げている。後任については米国も驚いているのではないか。米朝首脳会談のトランプへの仲介は鄭義溶が執行した。しかし、米朝首脳会談は具体的成果を達成できず、その間、北は核・ミサイル等の近代化の時間を稼ぐことになり、バイデン政権はこれを失敗と見なしている。文在寅が何を考えているのかよく分からない。しかも鄭義溶は1月20日「(南北)平和プロセスが根付くよう最善の努力を尽くしたい」との抱負まで述べている。1月21日付け中央日報社説は、「韓国の新任外交部長官、バイデン時代の外交に適合しているか」と題し、「韓米同盟、葛藤が激しくなっている韓日関係など山積した外交懸案を解決するうえで鄭氏が適任者ではないという考えを振り払い難い」と強い疑念を示している。

 バイデン政権誕生への狼狽は、対日関係にも波及している。大統領選直後の11月上旬に訪日した朴智元(国家情報院長)等は東京五輪の機会に金正恩を東京に招待し、南北・米・日首脳会談を開催する方策等を打診した。1月18日の新年記者会見で、文在寅は、徴用をめぐる裁判 につき日本企業の資産が「現金化」されることは「両国の関係にとって望ましくない」と述べるとともに、慰安婦判決についても「率直に少し困惑しているのが事実」と述べた。同23日、韓国外交部は、15年の日韓合意は「政府間の公式合意であり、政府としていかなる追加的な請求もしない方針だ」との立場を明らかにした(財団は一方的に解散させられているのだが)。これらの動きの背景にはバイデン政権の発足があると見られる。韓国は、日本政府の言う「国際法違反の是正」をせねば困るし、司法を含め外交全体を世界のスタンダードに沿ったものにする必要がある。今後の具体的行動を注視したい。

  
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