韓国の「読み方」

2021年1月19日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 韓国の司法判断が日韓関係の障害となる場面が目立っている。元慰安婦への賠償を日本政府に命じた1月8日のソウル中央地裁判決は、その最新版である。慣習国際法の原則である「主権免除」を否定した今回の判決は従来にもまして日韓関係に大きな影響を与えそうだ。

 日本政府は判決を無視する方針なので、1審判決で確定すると見られる。ただ、同様の訴訟が別の裁判長の下で行われており、こちらはなぜか13日に予定されていた判決公判が取り消された。3月に弁論を再開するので、判決は早くても4月だろう。

(YONHAP NEWS/アフロ)

正反対の判決が春に出る可能性も

 後続訴訟の裁判長が8日の判決を見て、判決予定を変更したのは確実だ。それが何を意味するのかは分からないが、8日の判決と正反対の結論となる可能性もある。

 日本でも各地の裁判所で一斉に提訴され、1審や2審では判断がバラバラになることがあるので、そのこと自体は珍しくない。たとえいったん確定したとしても、あくまでも1審判決である。最高裁判決ではないから、他の裁判官が確定判決に従う義務はない。

 さらに判決と「執行」は別の問題だ。今回の判決が確定したとしても、日本政府が賠償命令に従うことはない。そうなると通常は財産の差し押さえという「執行」段階に入るのだが、その段階でも改めて主権免除の壁がある。

 そして裁判そのものより、財産の差し押さえの方が難しい。大使館が行う現地職員との雇用契約や、外国企業からの物品購入といった商業的行為の場合、主権免除は認められない。それでも、この例外にあてはまっても差し押さえまでできるとは限らないのである。

 それに、判決の執行には時間がかかる。日本企業に賠償を命じた元徴用工の訴訟では、大法院(韓国最高裁)の確定判決が出てから2年以上経った現在も、執行完了といえる「現金化」は実現していない。

 それを考えれば、今回の判決について日本政府が韓国に抗議するのは当然だとしても、具体的な対抗措置をそこまで急ぐ必要はないように思われる。少なくとも、「もう一つの訴訟」の判決を見守る必要があるだろう。

「強者の論理」である国際法秩序への挑戦

 今回の判決は、慰安婦制度について「日本帝国によって計画的、組織的かつ広範囲に実行された反人道的な犯罪行為として国際強行規範に違反する」と判断して、主権免除を認めなかった。

 「強行規範」というのは、「いかなる逸脱も許されない規範」で、「国により構成されている国際社会全体が受け入れ、かつ、認める規範」だ。締結する時に強行規範に反する条約は無効だとされる(条約法条約53条)。

 ただ、具体的に何が該当するかは明示されていない。国際司法裁判所(ICJ)がこれまでに強行規範だと認めたのは、拷問とジェノサイド(民族や宗教的集団の全部または一部を破壊する意図を持って行われる集団殺害や危害行為)だけだ。

 日本の国際法研究者に聞くと、慰安婦制度を認める条約をこれから作れるかと考えれば「強行規範」に該当すると考えらることができるそうだ。ただ、それは現在の基準であって、70年以上前にまで遡って主権免除の例外だと言えるかは別の問題だ。判決が丁寧な立論でこうした点を乗り越えたと見るのは難しい。

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