2023年12月11日(月)

韓国の「読み方」

2020年12月17日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 韓国の文在寅政権をめぐる情勢が騒がしい。政権と検察の対立に世論の批判が強まる一方で、実質的に検察の権限縮小を図る「検察改革」の制度改正が強引に進められているからだ。結果として、政権支持率は2017年5月の発足以降で最低水準にまで落ち込んた。韓国の大統領は再選なしの1期5年だけなので、任期はもう終盤に差し掛かりつつある。このままレームダック化していくのだろうか。

 韓国政治の現状を簡単にまとめると、こうなるだろう。ただし政権の求心力が本当に低下してきたのか、あるいはレームダック化していくのかを現時点で見極めるのは難しい。日本と同じように新型コロナウイルスの感染「第3波」に見舞われたことから、今後の感染状況は政局に影響を与える大きな変数となる。ただ少なくとも現時点では、文政権は相変わらずの強権ぶりで正面突破を図ろうとしているし、それが奏功する可能性も十分にありそうだ。外部からは無茶にも思える強硬姿勢の背景について考えてみたい。

支持率低下しても、文在寅大統領(左から2番目)は秋美愛法相(右から2番目)の基での検察改革への姿勢を変えていない(YONHAP NEWS/アフロ)

支持率低下でも歴代政権よりは高く

 まず指摘しておかねばならないのは、支持率低下といっても程度問題に過ぎないということだ。政権発足から3カ月で20ポイント以上落ちたというような急激な変動ではない。韓国ギャラップ社の世論調査を月ごとにまとめて見ると、2019年は最高48%、最低42%の間を推移していた。2020年に入ってからは、コロナ第1波の抑え込みに成功したことで春先に7割近くまで急上昇したものの、第2波の感染拡大が起きた夏以降は40%台前半に戻っていた。

 それが、秋美愛(チュ・ミエ)法相が尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長を懲戒委員会にかけると発表した11月下旬の週間調査で40%となり、12月11日発表では38%になった。政権発足以降の最低ではあるが、任期4年目後半という時期で30%台後半というのは歴代政権に比べると高い数字だ。時を同じくしてコロナ第3波に襲われたことを考えれば、緩やかな下落とすら言える。

 同社の調査は支持・不支持の理由についても聞いている。12月11日発表分で支持理由の最多は「コロナ対応」25%、次が「検察改革」10%だ。検察改革というのは、大統領や国会議員を含む高官に関する捜査権限を新設の「高官犯罪捜査庁(直訳だと、高位公職者犯罪捜査処=公捜処)」に検察から移管することが柱となっている。検察の力をそぐための改革で、捜査庁設置を急ぐための法律改正案が10日に成立した。国会議席の6割弱を握る与党の「数の力」で保守野党の抵抗を押し切り、強引に採決に持ち込んでの国会通過だった。

 不支持理由は「不動産政策」18%、「全般的によくない」12%、「人事」7%がトップ3。その次に「法務省と検察の対立」「コロナ対応が足りない」「独断的(独善的)」「経済問題を解決できない」が6%で並ぶ。文在寅政権に対しては不動産価格の高騰に無策だという不満が強く、4日の内閣改造で担当閣僚を交代させたものの批判が収まらずにいる。このことへの不満が大きいと言えそうだ。


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