韓国の「読み方」

2020年9月25日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

法相による息子の兵役での特別扱いで市民団体による抗議活動が行われるも、文政権へのダメージは小さい(YONHAP NEWS/アフロ)

 韓国の文在寅政権がまた「法相スキャンダル」に見舞われている。それだけではない。日本で最近大きく報じられただけでも、朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長の自殺とセクハラ疑惑、4月の総選挙に与党から比例で出馬して当選した尹美香(ユン・ミヒャン)前正義連=旧挺対協=理事長の在宅起訴と立て続けである。

 ただ不思議なことに、少なくとも現時点では、文在寅政権が大きな打撃を受けたようには見えない。政権側の対応も強気である。一部の日本メディアが「政権に打撃」と書いているが、私には何を見ているのか理解できない。

 前法相は娘の入試、現法相は息子の兵役での特別扱いに疑惑を持たれた。韓国の受験戦争の厳しさや兵役の負担感は日本でも知られているので、「政権に打撃」と書く時には理由としやすい。だが実際には、日本には文在寅大統領を嫌いな人が多いと考え、その人たちを喜ばせようと書いているだけのように思えるのだ。

 前法相のスキャンダルの時にも「怒りを全国民が共有しているわけではない」と書いたけれど(『文在寅政権は不正入試疑惑で揺らぐのか』)、やはり今回も同じことが起きている。その背景を考えてみたい。

今度は法相息子の「兵役」が疑惑の焦点に

 まずは「法相スキャンダル」を簡単に見ておきたい。

 昨年夏から秋にかけて日本でも「タマネギ男」などとして報じられた曺国(チョ・グク)前法相は、娘の不正入学疑惑や不正投資疑惑など次から次へとスキャンダルが報じられた。結局、1カ月余りで辞任に追い込まれ、収賄や職権乱用の罪などで在宅起訴された。

 今度は曺氏の後任として、今年1月に就任した女性の秋美愛(チュ・ミエ)法相である。兵役に就いていた息子が病気休暇の取得で特別な計らいを受けていたのではないかという疑惑だ。休暇を取ったのは文政権の発足直後で、秋氏は当時、与党の代表だった。法相就任前に野党が追及し、検察に告発もした。だが裁判官出身の秋氏は勝ち気な性格で知られ、国会での野党議員の追及にも「小説をお書きになっていますね」などと挑発的な答弁をしていた。

 ところが8月下旬になってから、秋氏に不利な証言などが次々と出てき始めた。国防省になければならない関連記録が見つからなかったり、秋氏に不利となりかねない発言をした当局者がすぐに前言撤回したりという、どこかで見たような光景まで展開された。

 秋法相を巡っては、人事権をてこにした徹底的な検察掌握も批判の対象となっている。1月の就任直後から異例の短期間に幹部人事を繰り返し、気骨のある検事として文大統領から抜てきされた尹錫悦(ユン・ソンニョル)検事総長の手足となってきた幹部を軒並み閑職に追いやった。そして、総長以外の要職を政権に近いとされる検事で埋めたのだ。総長だけは任期で守られているが、それ以外の幹部の人事権は法相が持っている。

 任命される際に大統領から聖域なき捜査を指示された尹総長は、曺国スキャンダル以外にも青瓦台がらみの選挙介入疑惑などを積極的に捜査しようとしていたのだが、完全に手足をもがれた状態だ。保守系の朝鮮日報は社説で「人事上の虐殺」と批判した。同紙によると、昨年は110人、今年も8月末までに40人以上の検事が辞表を出した。さらに、検察内部には花形であるはずのソウル中央地検への異動を避けようとする空気まであるという。政治がらみの事件を扱うことも多い部署だから、「触らぬ神にたたりなし」というわけだ。

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