2022年12月2日(金)

韓国の「読み方」

2020年9月25日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

支持率急落?実態は「コロナ前」に戻っただけ

 こうして見ると、政権に大打撃となってもおかしくないような気がする。しかし、そうはなっていない。

 韓国ギャラップ社の世論調査を見てみよう。同社は通常、火曜日〜木曜日に調査した結果を金曜日に発表する。まずは、秋法相の息子の疑惑への追及が激しくなった8月下旬以降である。日程的に影響が出る前と考えられる8月28日(発表日、以下も同じ)が47%、翌週以降は9月4日45%、11日46%、18日45%、25日44%と横ばいである。

 年代別に見ると、9月4日に18〜29歳が大きく落ち込んだが、翌週には元に戻った。世代的に兵役は自分たちの問題だから反応したのかもしれないが、落ち込んだのは一瞬だったことになる。

 文大統領の支持率については、7月にも「急落」「落ち込み」などという記事が多く出た。ただ、それも数字の見方次第である。新型コロナウイルスの第一波をうまく抑え込んだ春先に異常な上昇ぶりを見せた分が、時間の経過とともにはげ落ちた側面が大きいからだ。

 韓国ギャラップは、調査結果を月ごとに集計し直したデータも公表している。これを見ると、発足直後から米朝首脳会談のあった2018年6月まではおおむね7割以上をキープするが、同年後半は下降に転じた。そして昨年(2019年)は年間を通じて40%台前半から後半で落ち着いた動きを見せる。最低が42%、最高が48%だった。

 そして今年である。当初は40%台半ばと昨年からの流れを引き継ぐが、4月60%、5月67%と急上昇した。韓国のコロナ第一波は2月下旬から3月上旬がピークで、4月に入ると新規感染者数1ケタという日が珍しくなくなった。文大統領が「K防疫」と呼ぶコロナ対策の成功は韓国人を大いに鼓舞し、大統領支持率も上がった。文政権は4月の総選挙でコロナという望外の追い風を受け、地滑り的な勝利を収めた。

 ただ選挙後に「数の力」に任せた強引な国会運営が目立つようになり、前述のように検察人事にも批判が集まった。数々のスキャンダルも出た。そして、6月には57%、7月に46%、8月に44%となった。そして9月は45%。結局、昨年の平均値に戻っただけということになる。

 昨年の曺国スキャンダルの時も48%(7月)が42%(9、10月)になった程度で、法相辞任後の11月に45%、12月には47%と戻った。入試や兵役がらみの不正が本当に大打撃なのなら、こんな数字の動きにはならないはずだ。

 そして実は、任期5年で再任のない韓国大統領にとって任期4年目の半ばで支持率40%台というのは、歴代大統領の中でかなり高い方なのである。

 入試や兵役がらみの不正疑惑がたいしたことではないと言っているわけではない。なぜか文在寅政権には大きな打撃になっていないというだけだ。それは、「ムンパ」と呼ばれる熱狂的な支持者の存在を抜きには説明できない。

 それは、文大統領個人の力というより、進歩派による政権維持への執念につながるものだ。主軸となっているのは、1980年代の民主化運動を担った「586」と呼ばれる世代である。彼らは、保守派と進歩派の分裂の深まる韓国社会において、次の大統領選でも絶対に勝たねばならないという強い信念を持っている。そして保守派の手先となってきたのが検察だと考え、検察改革を最優先課題とする。その象徴が曺・前法相だった。

 一方で586世代はいまや、既得権益を独占する「勝ち組」世代だと若者から批判されてもいる。だが、民主化を勝ち取って立派な国を作り上げたと自負する586世代に、そうした批判が深刻に受け止められているようには見えない。自分たちは常に「正しい」という意識から抜け出せないのである。それが、2人の前法相のスキャンダルがあっても核心的な支持層に動揺が見られない理由だろう。

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