2022年12月2日(金)

韓国の「読み方」

2020年9月25日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

政権擁護派の人々の理屈を見ると…

 韓国では最近、曺国スキャンダルを正反対の視点から取り上げた2冊の本が出版され、話題となった。通称「曺国白書」と「曺国黒書」である。徹底擁護の「白書」を読むと、なぜ2人のスキャンダルが政権支持層に響かないか理解できるような気がした。そこにあったのは、次のような記述である。

 「曺国氏の娘の入試の問題と関連して、メディアは不公平と不公正の両方を問題にした。しかし不公平な状況は曺国氏ではなく、韓国社会の階層構造と入試制度が作ったものだ」

 「曺国氏の『道徳性』を巡って提起された問題は、庶民に喪失感と剥奪感を与えた点においてノーブレスオブリージュと関連して非難されうるものだった。だが、韓国社会上層のエリートたちの間で通用する一般的な慣行と道徳性に照らしてみれば、たいがいは『常識』の範囲内のことだった」

 「曺国氏の娘が『論文第1著者』になったプロセスは、社会的ネットワークが組織され、学生の『スペック』に反映される方式をよく見せてくれた。問題の核心は、父母と学生の個人的な道徳性ではなく、名門高校を媒介として形成される縁故(コネ)にあった」

 「論文第1著者」というのは、曺氏の娘が高校生の時に大学研究所で2週間のインターンを行い、その成果として医学論文の第1著者になったというものだ。それが大学入試でのアピールポイントに使われた。この点については、こんな記述もあった。

 「どこにつながるかが違うだけで、社会的な縁故を使うのは超階層的だ。同じ大学の学生でもコンビニでアルバイトする人もいれば、家庭教師をする人もいる。このような違いにまで、たいていは親の縁故が作用する。100時間のボランティア活動をしても(入試の)自己紹介書に1行しか書けない高校生がいるかと思えば、2週間のインターンをしただけで論文第1著者になる高校生もいる」

 この本の記述については、特別なコメントなど不要だろう。読んで、そのままである。

 ただ、586世代の進歩派がみな同じ考えであるわけではない。「黒書」は、曺国スキャンダルを契機に文政権批判を始めた進歩派の論客たちの手になるものだ。「黒書」のタイトルは、就任式での文大統領の言葉を借りた「今までに経験したことのない国」。同書は「『今までに経験したことのない国を作る』という文大統領の公約は、我々の期待とはまったく違う方向で実現した」と皮肉っている。ちなみに、ほぼ同時に発売された白書と黒書だが、売り上げは黒書の方が圧倒的に多いようだ。

 韓国の政局は既に、2022年3月の大統領選を意識して動き始めた。まずは、来年4月のソウル、釜山の両市長選が前哨戦として重視されている。それまで文政権が今まで通り打たれ強さを見せるのか、それとも強硬路線の反動で苦境に陥るのか。韓国の歴代政権は任期最後で苦境に追い込まれるのが常だったが、文政権も必ずそうなると断言していいかは迷うところである。反動のマグマはどんどん蓄積されているようには思うのだが、爆発する水準に達するかは今後の推移を見守る必要がありそうだ。

  
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