2024年4月19日(金)

韓国の「読み方」

2020年12月17日

 法相と検事総長の対立について聞く世論調査では、法相に批判的な意見が多い。だがギャラップ社の調査を見る限り、政権支持率に大きな影響を与える要素とはなっていないことになる。法務省の懲戒委員会は16日、尹検事総長に対する停職2カ月の処分を議決した。尹氏は法廷闘争を展開すると見られているが、政権側は秋法相の辞意表明によって批判世論を沈静化させたい考えのようだ。

 別の調査会社であるリアルメーター社が14日に発表した世論調査では、大統領支持率が36.7%まで落ち込んだ。ただ、同社が同時に発表した捜査庁設置法の改正案可決に関する別の世論調査では「よかった」が39.6%で、政権支持層では「よかった」が9割に達していた。法相と検事総長の対立も検察改革から派生したものなのだが、全般として検察改革は政権支持層に受けていると言えそうだ。

強硬策連発での検察改革「仕上げ」を自賛

 韓国では、国家情報院(情報機関)▽検察▽警察▽国税庁の4つを「権力機関」と呼ぶ。権力が政敵を圧迫するため、陰に陽に使ってきたからだ。過去に保守政権が政敵圧迫に利用してきた情報機関は、90年代以降の改革で国内政治に介入できなくなった。その代わりに存在感を高めたのが検察で、進歩派の盧武鉉大統領が検察改革をしようとしたものの挫折。盧氏は、後任である保守派の李明博政権下で家族や側近の不正疑惑にからんで検察の捜査対象となり、自ら命を絶った。

 盧氏は死後、進歩派のシンボル的存在となった。その盧氏が追求した検察改革は、盟友だった文在寅大統領にとっても宿願である。検察に「権力機関」などと呼ばれてきた歴史的な側面があることは事実であるうえ、近年は大きな捜査権限を背景にした金銭がらみのスキャンダルも珍しくない。「韓国の検察には権限が集中しすぎだ」という批判が受け入れられやすい素地はあった。

 しかし、それにしても文政権の手法は強引としか言いようがない。

 文政権は2019年末、進歩派の小政党や中道保守野党を取り込んで高官犯罪捜査庁の設置法を成立させた。進歩派政権による保守派攻撃の道具になると警戒する保守派の最大野党、自由韓国党(現・国民の力)がボイコットする中での強行採決だった。

 この時点では、野党の懸念に応えるものだと説明される仕組みが法律に盛り込まれていた。野党指名の2人を含む7人の推薦委員会で庁長候補を審議し、6人以上の賛成を得た2人を大統領に推薦することにしたのだ。委員会から推薦された2人のどちらかを大統領が指名する。野党側委員2人が反対すれば人事を阻止できるから、野党にも受け入れられる人物しか庁長にはなれないという理屈だ。

 ところが実際に推薦委員会が発足すると、野党側委員2人の抵抗で庁長候補選びは難航した。

 これは、与党にとって想定外だった可能性がある。推薦委員を出せるのは国会議員20人以上の政党で、法制定時に条件を満たす野党は2つあった。そのうち1つは法案に賛成した中道保守政党だったのだが、2020年4月の総選挙を前にこの党は分裂。総選挙後に条件を満たすのは、強硬反対派の保守野党「国民の力」だけになってしまった。

 法制定時と同じ国会構成なら野党枠2とはいえ、1人は法案成立に協力した野党が持つ枠ということになる。ところが総選挙を経て国会構成が替わり、強行反対派の枠が2になってしまったということだ。

 与党側は結局、「野党は人選で文句を言っているのではない。捜査庁発足を阻止しようとしているだけだ」と断定。12月になって「7人中6人の賛成」としていた規定を「5人の賛成」に変更する法改正を強行した。これを歓迎した文大統領は「高官犯罪捜査庁は検察に対する民主的統制手段として大きな意味がある」と語り、検察改革の仕上げを自賛した。


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