この予感は的中してしまうことになる。一番早く収穫できる早場米「五百川」は例年8月下旬にはスーパーに並ぶが、12年産は9月1日にずれこみ、売上げは落ち込んだ。
「全袋検査」を勝機に
そして今現在(11月中旬)、直販部門の贈答品としての売上げは、まだ大きな回復を見ていない。一方で「卸し」や「飲食店」は新規顧客も含め、売上げは順調に伸びている。「直販」部門の苦戦に、後藤さんは「大きな課題」としたうえで、「全袋検査」をもっとアピールしていくことで、必ず活路は見い出せると信じる。
「信ぴょう性の高い国内トップレベルのメーカーの測定機械を使用しているうえ、一つひとつの袋を検査しているため、暫定基準値を超えた袋は、決して流出することはないんです。袋にはQRコードが貼ってあり、検査結果を知ることもできます。私が悔しいのは、この全袋検査がどれだけ優れているシステムなのか、多くの人に理解されていない点なんです」
後藤さんが驚いたのは、生産者や小売店の中にも、この全袋検査について理解していない人が少なくないことだった。これでは消費者にアピールすることはできるはずもない。
「全袋検査による安全性の確認体制を取る都道府県は、福島県だけです。これは勝機なんです。もっといえば、日本中がこのシステムを確立すれば、日本の農業は世界に通用するようになると、私は思うんです」
この全袋検査をより確実なものにするために、後藤さんは「作付け前の圃場一枚一枚について、事前検査を実施すべき」と提案する。現在は、地区ごとサンプリングの圃場で事前検査をしているが、それでは不完全であることは間違いない。実際、12年の全袋検査では、いくつかの地区で暫定基準値を超えるコメが見つかっている。圃場一枚一枚を検査することで、基準値が高い圃場での作付けを避けることができる。
「放射性セシウムの吸収に効果のあるゼオライトの散布も、事前検査することで、どのくらいの量を散布すればいいのかが分かります。私どもの隣の村では『字』単位で、圃場の事前検査を行っています。決して不可能なことではないと思います」