「福島だから応援するんじゃない。
後藤さんのコメだから買いたいんだ」
こうした取り組みを行う同社に、福島県という枠で判断せずに、純粋に「健全なコメ」を求める業者がコンタクトを取り始めていく。
「『福島だから応援するんじゃない。後藤さんのコメだから買いたいんだ』と言ってもらえることもありました。メディアの報道に流されずに、自分たちの目で、商品を選ぼうとする業者は決して少なくなかった。このことは大きな自信になりました」
作付け制限工夫も説明不足
こうして11年は、トータルで10年の売上げを超え、後藤さんはその自信を胸に、12年産のコメづくりに入った。そのなかで大きな課題となったのは、BtoCである「直販」部門の売上げ回復であった。そうした中、国と福島県が大きな取り組みの実施を発表する。
12年から暫定基準値が500Bq/kg以下から100Bq/kg以下に変更になったことなどを考慮しつつ、福島県の米栽培について市町村単位よりもっと細かい区域単位で「作付制限区域」(計画的避難区域、11年産米調査で500Bq/kg超の区域など)「事前出荷制限区域」(11年産米調査で100Bq/kg超から500Bq/kg以下の区域など)「事前出荷制限区域以外」に分類して、それぞれ作付けルールを決め、そのうえで出荷する県産米すべてについて、放射性物質を調べる「全袋検査」を行うことを宣言したのだ。
同社は本宮市の旧青田地区、旧荒井村などに田んぼがある。これら区域の11年産のコメは一つとして500Bq/kgどころか100Bq/kgも超えていないが、本宮市の旧白岩村など一部区域で100Bq/kgを超えたため、市が「本宮市全体を事前出荷制限区域とする」と決めた。後藤さんは「一般消費者の買い控えにつながるかもしれない」と感じた。
「一般の方にしてみたら『御稲プライマルの区域は一度も暫定基準値を超えていないけど、市の方針で事前出荷制限区域になった』なんて分かるはずがないんです。私たちにも詳しい説明もなく、回覧板が回ってきた程度。市の方針に反対はしませんが、もし本宮市全体で一体的な管理をするならば、そのことをしっかり伝える努力をすべきでした」
全袋検査による、出荷時期の遅れも気がかりとなった。この検査は、収穫されたコメを袋詰めしたあと、検査機関に持ち運び、検査する工程が発生する。この時間のロスにより、出荷時期が遅れてしまう可能性を感じ取ったのだ。特に新米のスタート時期は、スーパーなどでは横一列に各産地の新米が並ぶ。「福島産のコメだけ遅れを取った場合、誰が『福島産を待とう』という気持ちになるのか。ほかの産地のコメを買いますよ」と後藤さん。