中国はこのところ、アリババ、テンセント、ディディといったテク企業への攻撃を強めている。多くの企業に対し、独占禁止法違反やデータの取り扱い規則違反などの理由で、50以上の規制措置が取られたという。中国が過去20年にわたり育成してきたテク産業は、本来、中国の繁栄を実現するとともに、米国の優越性に挑戦する基盤でもありうるはずである。
エコノミスト誌の8月14日付け社説‘Xi Jinping’s assault on tech will change China’s trajectory’は、中国による自国テク企業への攻撃の背景や目的につき、以下の諸点を指摘する。
・ビジネスの大物を謙虚にさせ、規制当局に秩序のないデジタル市場に対するより多くの権限を与える。
・共産党の青写真に沿って産業を再設計する。共産党は、これが中国の技術的優位を強め、競争を強化し、消費者の利益になることを希望している。
・地政学的理由。米国の技術で作られた部品へのアクセス制限は、中国に半導体のような重要な「ハードテク」分野でもっと自立することが必要であると考えさせた。ソーシャル・メディア、ゲーム企業などの弾圧が、才能ある技術者やプログラマーを「ハードテク」のほうに振り向けることが期待できる。
・デジタル市場は独占になりやすく、テク企業はデータを囲い込み、供給者を酷く扱い、労働者を搾取し、公衆道徳を堀り崩すという懸念。
・中国のテクへの弾圧は党の無制限な権力の誇示でもある。
中国のハイテク産業の統制強化は、今後の中国の経済を占う上で極めて重要なポイントである。この統制強化は、一時的なものではないと考えられる。共産党の指導的地位を確実にするための政策の一環であって、中国のテク企業が自由に発展していった時代は過去のものになったのかもしれない。
特に習近平が共産党の指導者である限り、彼のイデオロギー重視、政治重視の傾向からして、例えばジャック・マーのような人が、共産党にとり無視できないような大きな力を持つことは容認しないということではないかと考えられる。
習が採るイデオロギーは、共産党がすべてに対して圧倒的な優位に立ち指導していくということである。そのことが今後の中国経済に持つ意味は大変に大きく、かつ経済の成長にとってはマイナスの方向に働くだろう。テク企業は自由な発想ができる環境の中で成長してきたし、シリコンヴァレーでも中国でもそうであった。強い統制下では発展しづらいのではないかと思われる。
上記のエコノミスト社説は、「今の習近平路線は自滅的である可能性が高い」と主張しているが、その通りであろう。起業家精神を叩き潰して、経済を発展させようとするのは無理であろう。同社説は、中国のテク企業は4兆ドルの規模であると言っている。これは時価総額の意味なのかどうかよくわからないが、いずれにせよ相当な規模であり、その不調は中国経済全体に重しになろう。
外国の対中投資が今後どうなっていくのかについては、テク企業への投資は減少せざるを得ないように思われる。これまで投資してきて大きな利益を上げてきた投資ファンドは今回のアリババの金融子会社のIPO阻止、ディディ・グローバルの海外市場でのIPOの直後の規制強化による20%超の株価の下落などで、多大の損害を出した。
外国の投資家に対中投資にはリスクがあることを強く感じさせたと思われる。中国のテク企業については投資の引き上げさえ起こりかねない。
中国経済全体への影響については、投資の減少が乗数効果を通じてどの程度の波及をもたらすかは実際の数字を用いて計算して見る必要があるが、中国の経済の成長に良い影響がないということは確実であろう。
習近平は第20回党大会(2022年)で3選を目指していると思われるが、テク企業攻撃のようなことは危険なギャンブルのように見える。