2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月27日

jpa1999 / Designer_things / Olga Kurbatova / 31moonlight31 / iStock / Getty Images Plus

 中国では、昨年11月、馬雲(ジャック・マー)のアント・グループの新規株式公開が中国の金融規制当局の指示で中止されて以来、テク企業への統制が進んでいる。中国の2大インターネット企業であるアリババとテンセントは、独占禁止法の規制を受けている。7月初めには、配車サービスの「ディディ」(Didi Global)が、ニューヨークで上場してわずか数日で網にかかった。

 さらに最近、教育関連のテクノロジー業界もターゲットになっている。学校のカリキュラムに載っている科目を教える会社は、海外での上場や外国人投資家の獲得、利益の計上ができないという新しい規制ができた。子供たちを教える事業では、誰も金持ちになってはいけないということだ。

 エコノミスト誌7月31日号の社説は、こうしたテク企業統制を取り上げ、この締め付けは、国内外の企業活動や投資にネガティブな影響を与えうることを論じている。同社説によれば、中国の意向ははっきりしている。中国は、自国の取引所で、自国の権限で、自国の条件で資本を調達することを望んでいる。このことが金融市場に与えるマイナスの影響は、まだまだ続くと思われる。中国自身が最大の敗者となるかもしれない。

 教育産業やITやネットサービス産業が、急速かつ野放図に発展し、経済の安定的発展、あるいは社会の安定のために、規制を強化する必要があったことは否定できない。問題は規制の仕方であり、中国のやり方は国内外の企業活動や投資にネガティブな影響を与えうるという上記エコノミスト社説の指摘は正しい。だからといって中国国内の規制強化、中国式の管理、監督強化の流れが変わるとも思えない。

 それは、習近平政権の体質、発想と深く関わっているからだ。政治、イデオロギーの優先であり、「党の指導」の強調は特に際立っている。彼らは、中国のすべての空間に「党の指導」を行き渡らせることが、中国の成功と共産党の統治の持続を保証すると考えている。なぜなら中国共産党ほど優秀な政党は存在せず、「党の指導」を貫徹することにより、正しいことを確実に成し遂げるというのが建前だからだ。

 この「想定」と現実とが一致するかどうかは別問題だ。種々の議論はあり得るし、現にある。しかし、習近平路線と異なる声を発出できる環境はほぼ存在しなくなった。経済の現場が、持続的経済発展への負荷が大きくなりすぎて悲鳴を上げるまで、習近平は聞く耳を持たないであろう。

 しかも、米中関係の悪化は、現時点をとれば習近平への追い風となっている。あの米国が理不尽にも中国を潰しにかかってきている。習近平主席の下に全人民が一丸となって、この難局を乗り切らなければならない。しかも時間は中国に有利であり、今頑張れば必ず勝てる。これが中国の大衆社会の雰囲気なのだ。

 中国の経済関係部門の人材は育っている。経済のことはよく分かっている。実体経済への損害を最小にするために彼らは現場で全力を尽くすであろう。しかし、管理・監督部門は往々にして政治、イデオロギーに引っ張られる。しかも、当局が管理を強化しようとしている分野は、中国で最も活力のある創造的な民営企業が作りだした産業である。

 そこに手を入れることは、中国経済の活力をそぐ。民営企業は、現在、首を縮めて風向きを図り、どうするか考えている。先進的な民営企業に冬の時代が来たことは間違いない。

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