2024年12月13日(金)

喧嘩の作法

2013年1月15日

 日本企業が中国の地方都市で知財裁判を行うと負けることが多い。中国の地方都市の裁判官は、その地方の人民代表大会で選ばれるが、模倣品メーカーのボスが人民代表として裁判官の任命をすることもある。とはいえ裁判官には本質的に客観的公平さが求められるので、時間の経過とともに職務への意識が成熟し、いい方向に向かうことは期待できる。また北京での裁判は、客観的にみて勝てる案件は勝てる。

 日本企業が将来に備えなければいけないのは、裁判を多く経験することによりスキルアップをはかっておくことである。物事は経験すればするほどスキルがあがるが、それは考えられる戦術をあれこれと試すからである。スキルは動きの中で判断を繰り返すことにより身に付くもので、学問としてではない。

 あるとき中国の地方企業と意匠権侵害をやめさせる交渉を行った。相手はその企業のボスと地元の弁護士だった。彼らにはおそらく知財の知識も交渉の経験も少ないだろうと推測し、交渉の場では長い時間をかけて意匠権侵害の事実やこちらが落とし前をどのように考えているかについて、素人に諭すように話した。彼らは言葉少なにメモをとるばかりである。やがて何も決まらないまま最後に、このままだと裁判だ、と脅しをかけて交渉は終わった。

 おそらく彼らは自社に持ち帰って協議をするだろう、あれだけ説明したのだから折れてくるだろうと思った。さらに我々は訴状を既に準備しており、返事次第では北京で裁判を起こす準備もしていた。

 しかし彼らの対応は違っていた。すぐに彼らの地元で非侵害確認訴訟を起こしてきたのである。彼らもまた準備していた。そして仕掛けは彼らの方が早かった。模倣品メーカーのボスは地元の有力者である。先に訴訟を起こされてしまうとその場所が管轄地になる。北京にもっていくことができない。しかし、最後に北京の最高人民法院で勝てばいいとも思った。

優秀な敵は明日の味方

 実際に第一審では負けた。相手の弁護士は地方の人物であり、当時案件がそれほど多くなかった知財裁判など取り扱ったことがないように見えた。しかし、我々が中国以外の国で持つ権利の状況や、第三者へのライセンス供与状況などを丁寧に調べ、それをベースに僅かな弱点を突いてくるという優れた戦術スキルを持っていた。


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