現場の観点を重視し
一次方程式に落とし込む
前述の通り、池の水の栄養度が生物量に直結することは自明だ。だが、この栄養度の判定が一筋縄ではいかなかった。水質調査では窒素やリンの濃度を測定するのが一般的だが、測定する時期によって変動もあり、記録のない池も多い。指標とするには不十分と判断した船引さんは、水の色、池周辺の植生、地形から、栄養度の概算を試みた。
ため池には、地形によって「皿池」と「谷池」の主に2種類があり、特に皿池は平地に多く、水深も比較的浅いため富栄養化しやすい。また、水辺植物による水質浄化も間接的なファクターとなる。
最終的に船引さんは、判定した栄養度と、ため池の貯水面積(水量)を指標として抽出。栄養度に、貯水面積をかけ合わせた「総栄養量」をxとし、「推定の生物量」yを求める式(y = 0.02 x + 31キログラム)を導いた。中学生で習う簡単な一次方程式に落とし込んだのだ。
「本来なら、より多くのデータで精度の高いシミュレーションをするのが理想ですが、1キログラムの違いを知るより、大まかでも簡便に推定できることを重視しました。卒業研究として、一定の学術成果も求められますが、研究成果を地域の課題解決につなげるには、現場で利用してもらいやすいツールに落とし込むことが必要です。
この成果を利用するのは高齢の方々が多いと予想されたので、ため池フォーラムで発表した際にも、生物量を推定する手順を4段階に簡略化して示しました」。
努力の甲斐あって、悪臭の苦情も年々減ってきているという。しかし、かいぼりを巡ってはまだまだ議論を要することもある。一部では、別の池に捕獲した生物を移すことも行われているが、それでは根本的な解決にならないと、現在の推定量をもとに将来を予測し、今、必要とされる管理を提案する場面もあった。「データを示すことが対話の糸口になった」と船引さんは振り返る。
人の手によって作られた二次的な自然を維持するには、やはり人の手が必要だ。ため池はビオトープとして、生物のすみかとなり、人々の憩いの場でもある。同時に、降雨時の水量調整や、かいぼりのように地域の伝統を育む多面性がある。しかし豪雨や地震により老朽化したため池が決壊するリスクもあり、維持管理の重要性が増している。
「リアルな学び」を重視
明石高専では、ため池以外にも竪穴住居の復元など地域と連携した独自のプロジェクトを進めている。そこには学生のコンピテンシー(高い成果につながる行動特性)を高める狙いがある。実は、全国の高専の中でも進学校として知られる明石高専。卒業後は大学へ編入学する学生が過半数以上であり、船引さんも現在は東京大学大学院に進学している。
一方で、最近の学生の傾向として「いわゆる勉強はできても、自立、協働、創造といったコンピテンシーが弱い」と平石教授。社会に出れば、年齢も専門も関係ないように、学科・専攻を跨ぎ、教員と学生の垣根も取っ払った横断チームでプロジェクトに取り組む「Co+work(コ・プラスワーク)」という授業カリキュラムを導入している。
その成果は、コンピテンシーを測るPROGテストの結果で数値的にも表れているが、何より、学生のうちから価値を生み出す側になろうと挑むことが、高専生を逞しくしている。「高専で過ごす15歳から20歳の5年間は最もポテンシャルが伸びる黄金期であり、非認知能力を高められる最後の砦」と語る平石教授。学生がのびのびと挑戦できる環境づくりを目指し、教員の挑戦も続いている。
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