知られざる高専の世界

2021年9月3日

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堀川晃菜 ( ほりかわ・あきな)

科学コミュニケーター・サイエンスライター

新潟市出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学、同大学の大学院で生体分子機能工学を専攻。修士修了。農薬・種苗メーカーでの勤務を経て、日本科学未来館の科学コミュニケーター。その後WEBメディアの編集・記者を務め、現在はフリーランス。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、監修に『どうなってるの? ウイルスと細菌』(ひさかたチャイルド)。

 

「高専生です」。そう言って話がスムーズに進んだ記憶はほぼ無い。大概、こんな説明が要る。ロボコン映画で話題になった5年制の工業専門学校、「高専」です、と。15歳からの輝かしい青春を過ごす場としては、あまりにもマイナーな学校だ。

 しかし近年の高専生の活躍には、卒業生の筆者も目を見張るものがある。本連載では、高い専門性と技術力を有した金の卵たちが、さまざまな社会課題に独自の発想とモノづくりで挑む姿を伝えていく。初回はアフリカの農業支援を行う長岡工業高等専門学校(長岡高専)の取り組みを紹介する。

 2019年春に初開催された「JICA─高専オープンイノベーションチャレンジ」。国際協力機構(JICA)がアフリカの現地から抽出した社会課題・技術格差に対し、高専生が想像力と技術力を駆使して挑む。プレゼンで採択された提案は、実際にプロトタイプを作成し、現地で検証するという長期プログラムだ。これに参加した長岡高専の学生たちはその夏、自作の装置を手に、ケニアの大地を踏んだ。

 

 彼らのミッションは「アメリカミズアブの肥料・飼料化の効率化」。循環型農業を目指すケニアの地元企業が、回収した生ごみを餌に虫を育て、幼虫は乾燥させて家畜飼料に、糞は肥料にしている。作業としては、幼虫・糞・ごみ(腐敗を防ぐため)を分別するシンプルなものだが、全てが手作業だった。1つのトレイの分別には10分かかり、それを1000トレイもさばく。気の遠くなる作業だ。さらに施設に電気は通っていない。そんな状況で生産効率を高めるにはどうしたらよいか。

 チームは、アントレプレナー(起業家の意)部に所属する当時・本科4年生~専攻科2年生(大学1年~大学4年生相当)の男女5人で結成された。機械、電気、電子制御、物質工学と人選には専攻分野のバランスを考慮。顧問はコンクリート工学が専門の村上祐貴教授だ。村上教授は元々、授業の一環として県内企業の課題解決を目指す実践プログラム(JSCOOP)を展開していた。その活動に本格的に取り組みたいと志願する学生たちが17年、クラブを設立。19年時点で構造物の維持管理の支援などですでに300万円の売り上げを記録し、経験も実績もある彼らだったが、次なる課題は初の海外案件だ。

チームは男女5人で結成された

 戸惑いと期待を胸に、まずは調査を開始。「効率化といっても、具体的に何をどう改善すべきか。依頼主もひょっとしたら気づいていない真の困り事を見抜く必要がありました」とチームの代表を務めた青木尚登さんは話す。「課題設定を間違えば、どんな装置を作ったとしても解決にはつながりません」と同じくメンバーの齋藤祐功さん。メールやテレビ会議を通じて、現地企業からヒアリングを行い、約1カ月を費やして細かな要望、現地で調達可能な資材などの情報を収集。同時に装置のアイデアを磨いていった。

 彼らが考案したのは、金網製の円筒状のふるい装置だ。齋藤さんが、連結型の大型洗濯機に着想を得たという。そのアイデアをもとに樋口翔太さんが設計し、具現化した。彼らの装置では、3つの籠を連結し、右から左に進むにつれ、金網のメッシュが大きくなる。ハンドルで装置を回すと、1つ目の籠では最もサイズの小さな糞がふるい落とされ、2つ目では幼虫、最後の籠には生ごみのみが残る、という仕組み。

幼虫・糞・ごみが混在したものをふるいにかける。右から1つ目の籠に小さな糞、2つ目に幼虫、最後の籠には生ごみが残る仕組み(上の写真は改良後の装置)

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