2024年11月21日(木)

知られざる高専の世界

2021年9月3日

「ビー玉」に込めた思い
ついに訪れた渡航の時

 だが、これだけでは普通のふるいと変わらない。ポイントは、それぞれの籠の中につけた「ブレード」と呼ばれる弁だ。大谷俊介さんがこの弁を製作し、籠の中の空間を仕切ることで、1つ目の籠では糞をふるい落としている間、それ以外の物体(幼虫と生ごみ)は弁と籠の隙間に溜められるようになった。糞を十分に除けたら、今度は装置を逆回転させる。すると、隙間に溜まった物体は2つ目の籠へと入る。すでに空いた1つ目の籠には、早くも次の混合物を投入できる。この連続性によって効率化が叶うというわけだ。

 しかし実際に試作機を作ると、なんと装置が回らない。現地に空輸することを前提に、軸棒も分解・連結できるようにしていたが、手製の装置では中心軸を真っすぐに保つことが難しく、力が分散してしまったのだ。そこで籠を二重にし、外枠と内枠の間にビー玉を敷きつめることに。ビー玉の摩耗を軽減するため、ベビーパウダーを潤滑剤に使うアイデアを出したのは、唯一の女性メンバーだった松﨑りささんだ。「現地の人の負担を減らすため、私が一人でも回せるものにしたかった」と話す。

 試作機は1カ月に6度も作り替えられた。大学院の入学試験を控えたメンバーもいたが、早朝から夜中まで、まさに寝る間も惜しんで試作を重ね、ついに渡航の時が訪れた。だが、本当にうまくいくかは現地に行くまで分からなかった。なぜなら、俗称「ベンジョバエ」ことアメリカミズアブの入手が難しく、幼虫の代用としてパスタで実験してきたからだ。さぁ、現地でのデモンストレーションの結果はいかに。

現地での様子。実際に装置を動かしながら、その場で改善していった

「ワンダフル……!」。ケニア企業のCEOは、見事に3つを分別した彼らの装置を前に嘆声をもらした。「その瞬間、全て報われました。一生忘れられません」と青木さん。作業時間は従来の10分の1、大幅な短縮に成功。さらに幼虫をサイズ別に分けるなど、いくつかの宿題を持ち帰り、帰国した。

 プロトタイプの成功を受け、長岡高専とJICAはJICA─高専イノベーションプラットフォームを設置。協定には長岡産業活性化協会NAZEも加わり、設計から製作に至るまで、複数の企業から技術支援を受けた。試作段階では費用的な理由で断念した点もカバーされ、本格的な改良機が完成した。 

 彼らの取り組みについて、JICAアフリカ部次長の若林基治氏は 「開発途上国への支援においては、たとえ有用な装置を製作しても、高価であったり使い方が難しかったりすると、現地では浸透せず課題は解決できない。長岡高専の皆さんの製作した装置は、現地のニーズをくみ取り、安価で製作でき、現地の方々が誰でも使える。高専生の技術力とアイデアがとても高度で素晴らしいと感じた」と振り返る。

 高専生にとってはプロの仕事を間近で見る貴重な機会となった。残念ながら新型コロナウイルスの影響により、彼らが直接、改良機を届けることは叶わなかったが、後日現地から「分別がとても素早く、簡単になりました!」と連絡があった。「国を跨いでも、課題解決のロジックは変わらない」。そう話す彼らの瞳は力強かった。
(写真提供=長岡高専)

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Wedge 2021年9月号より
真珠湾攻撃から80年
真珠湾攻撃から80年

80年前の1941年、日本は太平洋戦争へと突入した。
当時の軍部の意思決定、情報や兵站を軽視する姿勢、メディアが果たした役割を紐解くと、令和の日本と二重写しになる。
国家の〝漂流〟が続く今だからこそ昭和史から学び、日本の明日を拓くときだ。


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