2022年12月8日(木)

知られざる高専の世界

2021年12月4日

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堀川晃菜 ( ほりかわ・あきな)

サイエンスライター・科学コミュニケーター

新潟県出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学。同大学大学院生命理工学研究科修了。農薬・種苗メーカーでの勤務を経て、日本科学未来館の科学コミュニケーター。その後、WEBメディアの記者・編集者を務め、現在はフリーランス。著書に『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、『みんなはどう思う? 感染症』(くもん社)。

 池の水を抜く「かいぼり」が近年ブームとなっている。だがそれは本来、外来種駆除のために行われてきたことではない。江戸時代をピークに、稲作をはじめとする農業用水の貯水池として造成されたため池は、現在も全国に約16万カ所ある。

 かつては冬になると、水漏れやひび割れがないか点検するため、水を抜き、池を干した。そして、この時に取れる鯉などの魚は貴重なたんぱく源として重宝され、掻き出した泥も肥料として農地へ運ばれた。昭和30年代までは恒例行事として見られた光景だ。

 現代社会にすっかり取り残され、循環の滞った池は、生活排水などの流入でさらに富栄養化が進み、強烈な悪臭を放つようになった。兵庫県はため池の数が2万4400カ所と日本一多い。なかでも明石市を含む東播磨地域は最大の集積地で、宅地開発に伴い、悪臭問題も深刻化している。

 そこで、県からの要請を受け、2009年から「ため池プロジェクト」に取り組んでいるのが明石工業高等専門学校建築学科の平石年弘教授だ。環境工学の専門家であり、においの研究者でもある。

かいぼりのシーズンは冬。富栄養化した池が悪臭を放つ中、学生たちは作業に取り組む。(写真=船引厚志さん提供)

 平石教授は学生たちを巻き込みながら、実践と研究の両面からアプローチを続けてきた。実践とはすなわち、長年放置された池で、かいぼりを復活させることだ。すでに富栄養化した池の水を浄化するには、生物量を減らさなければならない。

 特に鯉は繁殖力が強い上、餌を探しながら泥を攪拌するため、富栄養化を招く大きな要因となっている。泥に足を奪われながら魚を追う作業は、まさに体力勝負。魚1匹で10キロを超える大物もいる。高齢化が進む中、学生のマンパワーが歓迎されるのは想像に難くない(とりわけ運動部が大活躍!)。

池の中には10キロを超える大物の魚がいることも。(写真=船引厚志さん提供)

 問題は、かいぼりの後だ。多い時には一度に8トンもの魚が引き上げられる。その処理に頭を抱えたのだ。平石教授は広島県内の水産会社にフィッシュミールの原料として引き取ってもらえるよう活路を開拓。しかし水産会社にも難色を示されたのが、カメだった(特に外来種のミシシッピアカミミガメが多い)。固い甲羅の粉砕処理が難しく、可食部も少ない。フィッシュミールへの混入も問題となる。

 やむなく焼却処分されるのが現状だが、命あるもの、なんとか有効活用できないか。そこで平石ゼミでは学生の卒業研究として「カメの堆肥化」に取り組んできた。実際に、東播磨県民局や在来種の保護活動を行う団体と共に、かいぼりした池の近くで堆肥の山を作り、発酵の条件を整えることで堆肥化に成功している。

 もう一つの課題は、かいぼり前にあった。魚を運ぶコンテナ車は何台手配すればよいか。人手はどのくらい必要か――。実施にあたり、ため池を管理する農業組合や県との調整も学生が主体となって進める中、事前にその池の状態を把握したいというニーズが出てきた。

かいぼりの前には池をよく知る地域の人たちと打ち合わせを行い、研究と実践を繰り返してきた(写真=明石高専提供)

 そこで、池の生物量を予測するシミュレーションに取り組んだのが、2018年度から2年間、専攻科生として在籍していた船引厚志さんだ。「まさか、ため池の研究をするとは思いませんでした」。

 そう語る船引さんだが、自身も2年間で10回以上かいぼりに参加し、行政や組合の人たちと汗を流してきた。研究室に戻れば、パソコンの前で計算式と睨めっこの日々が続いた。

「先行研究も、シミュレーションに必要なデータもほとんどなかったので、まずデータ集めに苦労しました」と船引さん。各地のかいぼりに参加しては、池の周辺環境やかいぼりの実施頻度(前回からの経年数)を確認し、捕獲した魚類の量を種別に測定するなどして、さまざまなデータを集めていった。そのデータを整理し、ため池の生物量と相関のある指標を絞り込んでいった。

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