知られざる高専の世界

2021年9月30日

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堀川晃菜 ( ほりかわ・あきな)

科学コミュニケーター・サイエンスライター

新潟市出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学、同大学の大学院で生体分子機能工学を専攻。修士修了。農薬・種苗メーカーでの勤務を経て、日本科学未来館の科学コミュニケーター。その後WEBメディアの編集・記者を務め、現在はフリーランス。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、監修に『どうなってるの? ウイルスと細菌』(ひさかたチャイルド)。

 2012年12月2日、山梨県の中央自動車道笹子トンネルで天井板崩落と火災で9人が死亡。13年2月10日、静岡県浜松市の第一弁天橋が歩行者横断中に落橋。通行人は幸い無事だったが、あわや大惨事だ。

 道、トンネル、橋──私たちが日々利用するインフラの老朽化問題。国土交通省は全ての橋梁、トンネル等について5年に1度の点検を義務付けている。

 橋梁は全国に約72万橋ある。その“高齢化”も待ったなしの状況だ。29年には約半数が建設後50年以上となる。14年から18年にかけて実施された一巡目の定期点検では、早期に措置を講ずべき状態 (判定区分Ⅲ)と、緊急に措置を講ずべき状態 (判定区分Ⅳ)を合わせ、修繕が必要な橋は全体の約1割、7万橋近くあると判明した。

 そのうち9割は地方公共団体の管理下にある。しかし19年度末時点での修繕着手率は国交省の管理する橋梁が約7割に対し、地方では約3割に留まっていた。

約72万橋のうち、地方公共団体が管理する橋梁は約66万橋と9割以上を占める。【出典:国土交通省 道路メンテナンス年報(令和元年度・二巡目)】 写真を拡大

 自治体の予算不足、工事を請け負う業者に利が出にくい構造など、地方自治体が抱える課題は多い。さらに修繕したにもかかわらず「再劣化」する事態も生じている。その背景にあるのは、地方における技術者不足だ。少子高齢化による人手不足は建設業界も例外ではないが「そもそも、地方には橋に詳しい人が少ない。真に相談できる専門家がいない自治体に、その維持管理を任せることには無理がある」と舞鶴高専建設システム工学科教授で、社会基盤メンテナンス教育センター長(通称iMec、アイメック)の玉田和也氏は指摘する。

舞鶴高専の玉田和也教授。「iMec」を開設し地域の技術者にインフラメンテナンスの重要性を発信する(写真=舞鶴高専提供)

 玉田教授は教員職に就く以前、長年、橋梁メーカーに勤務し、全国各地の橋の設計に携わっていた。大型建造物に関する高度な知識を有する人材は都市部に集中し、修繕を要するインフラの多くは地方にある、その不均衡さを肌で感じてきた。

 07年に舞鶴高専に着任すると、さっそく京都府との連携を開始。14年にはインフラの維持管理に関する実践的な教育システムを構築するため、舞鶴高専内にiMecを開設した。

(写真=舞鶴高専提供)

「鉄道や高速道路は利用料金からメンテナンス費の一部を捻出できます。国の直轄下のインフラには国の予算がつきます。しかし、地方自治体はお金も、人も十分にはありません。首都圏と地方の実態は大きく乖離しています。国全体で見れば、市町村の橋が1つ落ちたところで毛細血管が切れたに過ぎませんが、地元住民にとっては生命線です。私たちはインフラを維持管理する技術を地域に根付かせるため、高専からのボトムアップを図っています」(玉田教授)

橋梁管理に携わる土木技術者が存在しない市区町村の割合に若干の改善は見られるが依然として厳しい状況がうかがえる。【出典:国土交通省 道路メンテナンス年報(令和元年度・二巡目)】 写真を拡大

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