2022年12月2日(金)

知られざる高専の世界

2021年9月30日

»著者プロフィール
著者
閉じる

堀川晃菜 ( ほりかわ・あきな)

サイエンスライター・科学コミュニケーター

新潟県出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学。同大学大学院生命理工学研究科修了。農薬・種苗メーカーでの勤務を経て、日本科学未来館の科学コミュニケーター。その後、WEBメディアの記者・編集者を務め、現在はフリーランス。著書に『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、『みんなはどう思う? 感染症』(くもん社)。

緊急時に発揮された迅速な連携

 舞鶴市には、クレインブリッジという橋長735メートルの大型の橋がある。ケーブルで吊って支える斜張橋という種類の橋だ。20年9月23日に橋を支える支承(ししょう)の一部に損傷が見つかり、同25日に応急工事、同29日から現在も全面通行止めとなっている。支承は橋の道路部分の荷重を橋脚部に伝達する部材で、橋の上部と下部構造の間に設置されている。損傷の第一発見者となったのが、櫻井さんだった。

舞鶴市のクレインブリッジ。昨年9月に損傷が見つかり、市と高専が連携し迅速な初期対応を行った(写真=舞鶴市提供)

「この日は午後3時頃に、別部位の補修計画を立てるため現場に向かいました。すると、支承のカバーが外れていて、内部の金属製のローラーが割れていることに気づきました。支承下承の異常な傾きに気付き、周囲を確認すると、支承のカバープレートが変形し外れていました。それで内部の金属製ローラーが割れていることに気づきました。

 19年に実施された直近の定期点検でも、市職員が20年3月に支承を確認した際にも異常はなかったので、最初は目を疑いました。玉田先生に連絡を入れると、すぐに駆け付けてくださり、日暮れ前には現場を確認してもらうことができました」

 損傷はすぐさま大きな影響を及ぼすとは考えにくいものの、特異的な事例と判断され、応急工事、通行止めとなった。

 実はこの橋、関西電力が舞鶴発電所建設工事用道路として建設したもので、1999年に市に移管された。通常、自治体ではこのような橋を管理しないため、損傷に関する知見も少ない。今回、問題となったローラーの損傷も、海外の論文をあたらないと同様の事例が見つからないほどレアケースだという。

 以前から、この橋の管理について市から相談を受けていた玉田教授は、ケーブルだけでなく、路面下の床版に鋼床版を用いていることなど、橋の特殊性と点検のポイント、管理上の問題点を挙げていた。その結果、市だけで管理するのは難しいと判断され、国土交通省近畿地方整備局の協力を得て、長寿命化修繕計画の策定を進めていた経緯がある。

 櫻井さんは玉田教授を「いざという時に頼れる、橋のかかりつけ医のような存在」だと話す。特に大学や研究機関が少ない地方の市町村では、有識者の存在は貴重だ。専門家の“先生”が雲の上の存在である限り、学術の社会還元にも地域格差は残るのかもしれない。

 クレインブリッジは今年10月末の通行再開を予定している。原因究明や復旧への検討にあたるメンバーには、舞鶴高専の卒業生も複数いる。その一人である同市土木課の桐村恵都さんは、玉田教授のもとで卒業研究を行い、在学中に基礎編を修了し、また舞鶴高専から舞鶴市(土木課)へインターンシップに来ていた。現在は業務で橋梁の定期点検に携わっている。通常の授業では習わないiMecならではの経験が職務に生かされていると話す。

「橋の上から見て綺麗に塗装されていても、真の状態は下側も見ないと分かりません。例えば、ひび割れにしても問題になる部位と、ならない部位があります。iMecでは、こうした基本的な要点を学びながら、コンクリート橋の打音検査なども実際に行いました。実物や模型を前に、自分の目や耳で覚えたことが今役立っています」

新着記事

»もっと見る